「アップセル」や「クロスセル」という言葉をご存じですか? どちらも売上をアップさせるためのマーケティング手法で、ビジネスで成果をあげたいのであれば必ず知っておきたい言葉です。
今回は、アップセル、クロスセルの基礎知識や両者の違いをわかりやすく解説するとともに、関連する手法として「ダウンセル」についても触れています。また、アップセル成功のコツもご紹介しますので、ぜひ、最後まで読んでみてください。
1.アップセルとは
「アップセル」とは、ある商品やサービスを購入した、もしくは購入を検討している顧客に対して、その商品と同じ種類でかつ「より高額な」グレードの高い商品、サービスを提案し購入してもらうマーケティング手法です。
アップセルの目的は、顧客一人当たりの売上単価を高め、総売上額をアップさせることです。売上には、「顧客単価」と「顧客数」が重要な要素となりますが、新規顧客の獲得には手間やコストがかかるものです。アップセルが成功すれば、顧客数はそのままで効率よく総売上額のアップが見込めます。
アップセルの事例としては、以下のようなものがあります。普段、店舗での買い物やネットショッピングをする際に経験したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- 上位商品への切り替え
ファストフード店での「+30円でLサイズにアップできますよ」という営業トークが代表的な例です。ほかにも、年会費無料のクレジットカードから年会費はかかるけれど特典のあるゴールドカードへ変更をすすめたり、ネットショッピング中におすすめアイテムとしてグレードの高い商品を表示させたりして、顧客の購入意欲を高める方法があります。
- まとめ売り
「3個買えば送料が無料」など、1個買うよりもまとめて買う方がお得であると感じさせて、価格の高いまとめ売り商品の購入を促す方法です。
- おまけ付き
「この商品の購入で今なら話題の●●をプレゼント」というように、ギャランティをつけることで、高価なアイテムをより魅力的に見せて購入を促す方法です。
「せっかく買うなら、上質なものやお得なものを買いたい」といった顧客心理をうまく利用するのがアップセルの特徴です。
2.アップセルとクロスセルの違い
アップセルと類似しているものに、「クロスセル」というマーケティング手法があります。
クロスセルとは、ある商品やサービスを購入した、もしくは購入を検討している顧客に対し、その商品と関連した別の商品を提案して一緒に購入してもらう手法です。合わせ買いをすすめて顧客一人当たりの購入商品数を増やすことで、総売上額のアップを図ります。
わかりやすい事例として、ファストフード店の「ご一緒にポテトはいかがですか?」といったサイドメニューをすすめる営業トークがあります。また、アパレルショップで洋服に合わせたアクセサリーをすすめられたり、ネットショップで「この商品を見た人は、こんな商品もチェックしています」という表示とともに関連商品が出てきたり、といった経験はみなさんお持ちなのではないでしょうか。
すでにメイン商品を買うつもりでお財布を開いている顧客に、「これも買えばメイン商品がもっと楽しめそう」などと思わせて、“ついで購入”の後押しするのがクロスセルの特徴です。
アップセルとクロスセルは、「総売上額の向上」という目指すゴールは同じです。しかし、「より高価な商品」をすすめるアップセルに対し、クロスセルは「関連する商品」をすすめるというように、ゴールまでのアプローチの仕方が異なります。
3.ダウンセルとは
アップセルをご存じの方は、「ダウンセル」という言葉も聞いたことがあるかもしれません。
ダウンセルとは、「予算が足りない」「自分にはグレードが高すぎる」といった都合である商品やサービスの購入を見送ろうとしている顧客に対し、意図的にその商品よりも安価でグレードの低い商品をすすめるマーケティング手法です。
「なぜ、わざわざ安いものを?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。
その理由は、ダウンセルの目的が、「顧客が何も購入しないために、売上がゼロになってしまうリスクを回避すること」だからです。たとえ価格の低い商品であっても、何も買わないよりは買ってくれた方が売上はプラスになります。
ここで注意したいのは、ダウンセルは商品の値下げではないということ。あくまでも、価格の低い「別の商品」を提案するのがダウンセルの基本です。
アップセルが顧客単価を上げて売上を向上させる手法である一方、ダウンセルは顧客単価を下げて損失を防ぐ手法といえるでしょう。そこが、両者の異なる点です。
4.アップセル成功のコツ
ビジネスで成果を上げるなら、できればアップセルで効率よく売上高をあげたいものですよね。しかし、グレードの高い商品をただむやみにすすめるだけでは、アップセルは成功しづらいのが現実です。
そこで、アップセルを成功に導くために知っておきたいコツをいくつかご紹介します。
- 顧客層の見極め
アップセルが成功しやすいのは、自社の商品やサービスに信頼や愛着を持っている「ロイヤルティの高い」顧客層です。購入履歴、取引状況など顧客データを分析し、該当する顧客層を見極めて実行していくことが重要なポイントです。
- 商品、サービスの品質管理
ロイヤリティの高い顧客を維持しつつ、さらにファンを増やしていくためにもサービスや商品の品質管理には重きを置きましょう。例えば、商品のバージョンアップや保守サービスの充実を図ったり、さまざまなグレードの商品を取りそろえたり、といった顧客視点に立った工夫が必要です。
- 無理な売り込みは禁物
「とにかく売りたい!」という気持ちから、押し売りのような無理な売り込みをしてしまうと、購入につながりにくいだけでなく、顧客の信頼を失う可能性があります。ファンが離れてしまっては、アップセルの成功は難しくなります。やみくもに高価な商品を提案するのではなく、どのような商品なら顧客のニーズとマッチするか、顧客の満足度を上げられるのか、よく考えて行いましょう。
5.まとめ
アップセルとクロスセルについてご紹介しました。それぞれの目的ややり方をきちんと理解し、ビジネスの状況に合わせて効果的に使い分けていけるとよいですね。どちらを使うにしても、効果的に手法を実践するには、自社のサービスや商品に信頼を置き、ファンになってくれる顧客を掴んでおくことが重要な鍵となります。ぜひ、そのことを意識して実践してみてください。
金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。
お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。