財務レバレッジとは総資産を自己資本で割った数値。自己資本と他人資本のバランスが分かる財務レバレッジは、適切な経営判断をする上で欠かせない存在です。
今回は、財務レバレッジの算出方法や自己資本比率・ROEとの関係、適切な財務レバレッジの値について解説します。
安全性と収益性のバランスを正しく見抜くために、財務レバレッジへの理解を深めましょう。
1.財務レバレッジとは
財務レバレッジとは、自己資本の何倍の資金を事業に投じているかを示した数値。総資産が自己資本の何倍かを計算した値で「1.5倍」や「2倍」と表されます。
財務レバレッジの算出方法は以下の通りです。
<財務レバレッジの算出方法>
総資産(自己資本+他人資本)÷自己資本 =財務レバレッジ
【例】 総資産500万円(250万円+250万円)÷自己資本250万円 =財務レバレッジ2倍
総資産500万円(100万円+400万円)÷自己資本100万円 =財務レバレッジ5倍 |
企業の総資産は自己資本だけでなく借入金などの他人資本を加えたもので、「総資産=自己資本+他人資本」です。他人資本を増やせば事業に投下できる総資産額が増えて、自己資本だけでは手が出せない大規模ビジネスにチャレンジできます。
レバレッジ効果はいわゆる“テコの原理”のことで、財務レバレッジは「テコ(他人資本)を使えば、小さな力(自己資本)で大きな効果を出せる」と言い換えられます。
財務レバレッジは会社の収益性と安全性のバランスが分かる指標のひとつです。資金活用の具合を知りたい時に参考になります。
重要なことは、最適な財務レバレッジの値です。一般的には財務レバレッジ2倍程度が望ましいと言われています。
しかし、宿泊・飲食サービス業など先行投資が必要な業界ほど財務レバレッジが高くなる傾向があり、業界の特性も踏まえて判断する必要があります。負債額の占める割合が高くても、結果的に大きなリターンが得られれば問題ないからです。
2.自己資本比率との関係
自己資本比率とは企業の安全性表す指標で、自己資本を総資産で割って算出します。
<自己資本比率の算出方法>
自己資本比率(%)=自己資本÷総資産×100 |
<財務レバレッジの算出方法>
財務レバレッジ(倍)=総資産÷自己資本 |
自己資本比率が表しているのは総資金における自己資本の割合で、財務レバレッジは総資金が自己資本の何倍になるかを表しています。
算出方法から分かる通り、財務レバレッジは自己資本比率の逆数です。財務レバレッジが上がれば自己資本比率が低下します。
【例】
総資産500万円(250万円+250万円)で自己資本250万円の場合 財務レバレッジ2倍 自己資本比率50%
総資産500万円(100万円+400万円)で自己資本100万円の場合 財務レバレッジ5倍 自己資本比率20% |
自己資本比率が高ければ負債が少ない安全な財務状況だと言えますが、その反面、消極的な経営を行っている、成長するための努力を怠っている…とも受け取れます。
「自己資本比率が高い=優良企業」ではないので注意しましょう。資本効率など他の指標も参考にして総合的に判断することが大切です。
3.ROEとの関係
自己資本利益率(ROE)とは、株主が投資した自己資本を用いてどれくらい効率的に利益を上げているかを表した数値です。ROEの別名は「株主資本利益率」で、株主が投資効率を測る指標となります。
ROEと財務レバレッジが連動していることを確認するために、ROEの算出方法を分解してみましょう。
<自己資本利益率(ROE)の算出方法>
1. ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100
1つ目の式を分解すると ROE=当期純利益/売上高×売上高/総資産×総資産/自己資本 となり次の算式が導き出せます
2. ROE(%)=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
※売上高純利益率=当期純利益÷売上高 ※総資産回転率=売上高÷総資産 ※財務レバレッジ=総資産÷自己資本 |
ROEが低いと経営効率が悪いと判断されて、株主からの資金が集まりにくくなります。ROEが高いほど効率よく利益を出したと判断されますが、ROEを上げるためには当期純利益を増やすか、自己資本を減らさないといけません。
他人資産を増やして積極的に攻める戦略にシフトし当期純利益を上げることに成功すれば、ROEが高くなります。これが1つ目の式から分かることです。
2つ目の算式は財務レバレッジを用いた方法です。この式から分かるのは、財務レバレッジを高くすればROEも高くなること。売上高純利益率、総資産回転率を上げると共に事業への投資額を増やしてレバレッジを効かせれば収益性がさらに向上します。
4.財務レバレッジが高いということは?
財務レバレッジの最低値は1倍です。財務レバレッジが1倍の企業は「総資産=自己資本」なので、借入が全くなく完全自己資本経営です。財務レバレッジの値が低いほど、負債が少なく安全性の高い財務状況だと言えます。
逆に財務レバレッジが高い企業は、自己資本の割合が低いということ。たくさんの借入金があって財政面の負担になっている可能性があります。
ただし、事業を成長させるために必要な負債により財務レバレッジが高くなるケースもあることを覚えておきましょう。
自己資本だけで経営していける企業の数は少なく、大半は借入金や社債、支払手形などの他人資本を用いて不足分をカバーしています。
事業規模の拡大やさらなる利益獲得を目指している企業は、他人資本を増やすことで事業の成長が見込めるなら、財務レバレッジを高くして投資額を増やすべきです。
「財務レバレッジが高い企業=財務状況が悪い」と一概には言えません。財務レバレッジは「低ければ良い、高いのは悪い」と判断するものではなく、企業の戦略に合った数値であることが理想的です。
5.まとめ
事業を成長させるためには他人資本の活用が必要不可欠です。他人資本を用いる際の重要ポイントは、導入時期を見極めること。
無理な借り入れをして資金繰りが苦しくなっては本末転倒なので、安全性と収益機会の拡大のバランスを考慮して借入額や導入時期を決めることが大切です。
そのヒントになる財務指標が財務レバレッジです。重大な経営判断をする時には財務レバレッジの値を参考にしましょう。
医療機関勤務を経てフリーライターへ転身。起業家向けメディアへの執筆をはじめ様々なジャンルのサイトにて執筆。