起業を検討されている方にとって、会社を設立するためには、どの程度の費用が必要なのか、どんな手続きをすればいいのかというのは気になるところ。でも、意外と簡単なんですよ。
株式会社の場合、必要な費用はおおよそ30万円。手続きに必要な書類も、各ホームページに参考フォーマットが出ていますから、一つずつきちんと作成していけば大丈夫。ほぼトラブルになることもありません。では、最初から順番に解説していきます。
1. 株式会社を設立するには
株式会社を設立するには、定款を作成し、公証人役場での認証を受けた後、法務局へ法人登記を申請し、会社代表印の届け出を行う必要があります。
(1) 費用
株式会社を設立する際に必要となる費用は、以下の通りです。
株式会社を設立する際に必要な費用一覧
紙の定款 | 電子定款 | |
印紙代 | 40,000円 | なし |
定款の認証手数料 | 50,000円 | 50,000円 |
定款の謄本交付手数料(1通250円×8通) | 2,000円 | 2,000円 |
印鑑作成費用(概算です) | 20,000円 | 20,000円 |
印鑑証明書作成費用(概算です) | 2,000円 | 2,000円 |
電子定款システム費用(概算です) | なし | 3,000円 |
登記申請収入印紙代(登録免許税) | 150,000円 | 150,000円 |
会社代表印印鑑証明書交付手数料(1通450円×7通) | 3,150円 | 3,150円 |
登記事項証明書交付手数料(1通600円×7通) | 4,200円 | 4,200円 |
合 計 | 271,350円 | 234,350円 |
※公証人、法務局のホームページより抜粋
この他に、資本金が必要です。資本金とは、当面の運転資金です。会社法では資本金は1円でもよいことになっていますが、現実的には100万円から1000万円が一般的です。1000万円が1つの区切りとなっているのは、1000万円を超えると、設立初年度は消費税の免除が受けられなくなるからです。
(2) 印鑑
株式会社では、最低限3種類の印鑑が必要になります。
まず、会社代表印です。会社代表印は、株式会社の印鑑で極めて大事なものです。この会社代表印が押されている書類は、その会社が正式な意思決定に基づいて押印したものと扱われるからです。
次に取引口座を開設する際に、銀行(金融機関)に届け出る銀行印です。会社代表印を銀行印として届け出ることも可能ですが、一般的には別につくります。なぜなら、1つの印鑑で紛失・盗難に遭遇すると、会社の正式な意思決定の表明と銀行取引という企業経営の根幹に関わる活動ができなくなる場合があります。また、悪意のある人間に手に渡ると、架空の取引契約などを締結し、多額の現金を銀行から引き出すことが容易にできるようになります。こうしたリスクを分散させるためにも、会社代表印と銀行印は別々にするのが、経営者の常識とされています。
最後に、角印です。見積書や請求書、領収書などに押印する認印です。「株式会社〇〇之印」というように刻まれたもので、正方形の四角い形状をした印です。
これらの印鑑は、専門店などで新たにつくる必要がありますので、2万円程度の費用を見込んでおきましょう。
2. 株式会社の設立プロセス
株式会社を設立するには、3つの段階があります。
まず、基本原則となる「定款」を作成します。この「定款」に記載する事項は、会社法で定められている必須項目がありますので、記載漏れがないようにしましょう。
さらに、資本金は払込みという手続きを踏み、払込証明書を作成します。
そして、法務局にて、法人登記を行い、会社代表印の届け出を行います。
この3つの段階を経ると、株式会社が設立できます。最後まで頑張りましょう。
(1) 定款の作成と認証
会社法では、株式会社の基本原則、「定款」を作成することが定められています。
「定款」には、必ず「事業目的」、「商号」、「本店の所在地」、「設立に際して出資される財産又はその最低額」、「発起人の氏名又は名称及び住所」、「発行可能株式総数」を記載します。
「事業目的」では、株式会社が行う事業を全て記載します。設立時に行わない事業だとしても、将来的に行う可能性がある場合には、事前に記入しておきましょう。また、事業目的の最後には「前各号に付帯または関連する一切の事業」という文言を追加しておきましょう。この文言をいれておくことで、事業目的の幅が広がり、定款変更する手続きを軽減することができます。
「商号」とは、会社名です。株式会社の場合は、この商号に「株式会社」を入れます。株式会社をいれる位置は、商号の前でも後でも構いません。
「本店の所在地」は、最小行政区まで記載する必要があります。また自宅を本店として定める際に、賃貸では「法人不可」となっている場合もありますので、必ず契約書を確認しましょう。
「設立に際して出資される財産又はその最低額」とは、発起人全員の出資財産額、一部のみしか出資できていない場合は出資最低額として記載します。この出資額は、法人登記では資本金として設立登記申請書に記載しなくてはなりませんので、できれば確定させておきましょう。
株式会社設立の際には、必ず出資して株主となる「発起人」が必要です。定款には、この「発起人」の氏名・住所とともに出資した引受株数を記載し、署名しなくてはなりません。この記載と署名がないと定款そのものが無効になります。
「発行可能株式総数」については、定款の認証時には定めておく必要はありませんが、法人登記の設立登記申請書に記載しなくてはなりませんので、資本金と同様、できれば確定させておきましょう。
この他にも定款には、「株式」や「株主総会」、「取締役、監査役、代表取締役及び取締役会」、「計算(事業年度や配当)」、「附則」などを記載します。
公証役場のホームページには、「定款」の記載例が掲載されていますので、参考にしてください。
この定款には「紙の定款」と「電子定款」があります。「紙の定款」は、印紙税法で課税文書とされるため収入印紙を貼付することが必要ですが、「紙の定款」をPDF化し、代表者が作った旨の証明(電子証明)を行うことができれば、課税文書には該当しないので、印紙代を払う必要がなくなります。「電子定款」にする場合は、そのためのシステム費用として約3千円程度がかかるといわれています。また、定款の届け出には、発起人全員の印鑑証明書を添付する必要がありますので準備しておきましょう。
こうして作成した定款と印鑑証明書を公証人役場に提出して認証を受けます。認証を受けた定款は、原本の内容を全部写して作成した文書、定款の謄本を8通、交付してもらいましょう。1通は会社で保管し、残りは関係各所の提出用に保管しておきます。
(2) 資本金の払込み
会社法では、株式会社の資本金は、銀行などに払込(振込)をすると定めています。そこで、発起人の代表者(代表取締役)の個人名義口座に発起人から各々振り込んでもらいます。
資本金の払込が終了すると、「払込証明書」を作成します。払込口座の通帳の表紙、口座名義人や口座番号が記載されているページ(通常は表紙裏面)、そして払込みの記載のあるページのコピーをともに代表取締役が払込がなされたことを証明する「払込証明書」に添付し、各々の書類の継ぎ目に会社代表印を押印します。この「払込証明書」は、設立登記の添付書類として法務局に提出します。この資本金は、株式会社設立後、法人名義の口座に移します。
(3) 設立登記
定款の認証を受け、資本金の払込を完了したら、登記書類の準備をしましょう。
登記の申請は、株式会社を代表する発起人の代表者(代表取締役)が本店所在地の管轄法務局で行います。
登記では、「設立登記申請書」、「定款(謄本)」、「設立時発行株式(資本金)に関する発起人の同意書」、「設立時取締役、設立時監査役選任及び本店所在場所決議書」、「設立時代表取締役選定決議書」、「代表取締役・取締役・監査役の就任承諾書」、「出資金の払込証明書」、「印鑑証明書」、「本人確認証明書」、「印鑑届書」、「登録免許税(収入印紙)貼付台紙」など多くの書類を用意する必要がありますが、これらは、法務局のホームページにて各フォーマットが掲載されていますので、参考にしましょう。
「設立登記申請書」に添付する書類について、簡単にご説明します。
作成済みの定款の謄本を1部用意します。
- 「設立時発行株式(資本金)に関する発起人の同意書」
- 「設立時取締役、設立時監査役選任及び本店所在場所決議書」
- 「設立時代表取締役選定決議書」
設立時に発起人が創立総会を開催し、発行株式(資本金)や代表取締役・取締役・監査役などの選任、本店所在場所を決定したことを記載した書面です。 - 「代表取締役・取締役・監査役の就任承諾書」
代表取締役、取締役、監査役への就任を承諾したと証明する書類です。 - 「出資金の払込証明書」
資本金の払込証明書です。 - 「印鑑証明書」
- 「本人確認証明書」
発起人全員の印鑑証明書、住民票記載事項証明書や運転免許証などの写しが必要です。 - 「印鑑届書」
法人実印の届け出を行うために必要な書類です。 - 「登録免許税(収入印紙)納付用台紙」
株式会社の設立登記には登録免許税が必要です。登録免許税は、「資本金の金額×0.7%」です。「資本金の金額×0.7%」が150,000円に満たない場合は、登記申請1件につき150,000円となります。収入印紙は郵便局などで購入し、A4サイズの用紙の中心に貼り付けて提出します。
登記申請の方法には、3種類あります。これまでの説明は、通常の書面申請の方法です。
この他に、「申請用総合ソフト」を利用し、電子証明書を活用して、オンラインで申請する方法があります。一人で会社を設立する方の設立登記申請の場合は、法務省の方でも完全オンライン申請をすすめています。ただし、印鑑届書及び代表者の個人の印鑑証明書は、営業所の所在地(会社の本店)を管轄する法務局に持参又は送付する必要があるので注意しましょう。
電子証明書をお持ちでない場合は、「申請用総合ソフト」を利用して、申請書に記載される情報を管轄の登記所にインターネット経由で送信した後、その内容を「申請用総合ソフト」で登記申請書として印刷し、添付書類とともに管轄の法務局に持参し又は郵送して申請を完了させます。「申請用総合ソフト」で登記申請書として印刷すると、QRコード(2次元バーコード)が印字されます。このQRコードは管轄の法務局で使用しますので、ゴミや汚れが付着しないように注意しましょう。
3. 株式会社設立後にすべきこと
法人登記が完了し、株式会社の設立もほぼ完了しました。この後は、税務署への法人設立届や社会保険関係、また金融機関の法人口座の開設などを行っていきます。
各種手続きでは提出書類として、会社代表印印鑑証明書や定款の謄本、登記事項証明書が必要なケースもありますので、これらの手続き用に準備しておきましょう。
(1) 法人設立届出書
会社を設立したら、税務署への届け出を行います。設立登記以後、2カ月以内に「法人設立届出書」を「定款(謄本)」とともに納税地の所轄税務署長に提出します。税務署には、この「法人設立届出書」とともに「源泉所得税関係の届出書」、「消費税関係の届出書」、「青色申告の承認申請書」、「棚卸資産の評価方法の届出書」、「減価償却資産の償却方法の届出書」、「有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書」などの申請書や届出書を提出します。
(2) 社会保険関係
社会保険関係の加入手続きも重要です。たとえ社長一人の株式会社でも、「国民年金」や「健康保険」は加入が義務付けられています。また、従業員が入社した際には「労働保険」への加入手続きを進めましょう。
「国民年金」と「健康保険」については、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」に必要事項を記入・押印し登記事項証明書を添付して、管轄する年金事務所に提出します。
「労働保険」とは「労災保険(労働者災害補償保険)」と「雇用保険」の総称です。手続きには、本店の管轄する労働基準監督署で「労災保険」の手続きをして、その後公共職業安定所(ハローワーク)にて「雇用保険」の手続きをします。
まず、労働基準監督署に、「労働保険保険関係成立届」「労働保険概算保険料申告書」に必要事項を記入・押印し、登記事項証明書を添付して提出します。そして労働保険番号の交付を受けたのち、ハローワークに、「労働保険保険関係成立届事業主控」とともに「雇用保険適用事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。「雇用保険適用事業所設置届」には、登記事項証明書の添付が必要です。
参考:厚生労働省「事業主の皆様へ ~雇用保険の手続きについて~」
参考:手続きが初めての場合はまずこちら(事業所の届出)
(3) 銀行口座
最後に、銀行にて法人口座の開設を行います。
口座開設をするためには、代表取締役は口座を開設したい銀行の支店に直接出向いて手続きします。銀行ごとに多少異なりますが、一般的に必要な書類は、以下の通りです。
- 登記事項証明書
会社の情報を全て掲載した「履歴事項全部証明書」を用意しましょう。 - 会社代表印と会社代表印印鑑証明書
法務局に届け出た代表印と法務局が交付した印鑑証明書です。 - 代表取締役の本人確認書類
運転免許証など、代表取締役が本人であることを証明できる書類です。 - 法人設立届出書
税務署に提出した書類で、税務署の受付印が押印されている必要があります。 - 銀行届出印
銀行に届け出る印鑑です。 - 主たる事業の許認可証(有効期限内のもの)の写し
許認可が必要な事業の場合には、その手続きが完了している書類が必要です。
この他に、あると望ましいものは、「事業計画書」や「(本店の)オフィス賃貸契約書」、「会社案内・パンフレット」です。
4. まとめ
いかがでしたでしょうか?これらの手続きを、事業そのものの準備と並行して進めていくのは大変かもしれませんが、株式会社の設立は、計画的に取り組んでいけば、最短で2週間程度、多くの場合は1ヵ月程度で終えることができます。手続きに必要な書類は、ほとんどが各提出先・関係機関のホームページで参考フォーマットが出ていますので、それに従って作成していけば大丈夫です。また、「電子定款」にすればコストも削減できますし、オンラインで登記申請を行えば、法務局に足を運ぶ必要もありません。まずは、参考フォーマットをみながら、記載する内容を構想するところから始めてみましょう。
宝石販売会社、市場調査会社、広告制作プロダクション、IRコンサルティング会社を経て独立。広報・IR分野のコンサルティングおよび記事執筆のジャーナリストとして活動。2020年、コロナウイルス感染拡大による社会的な構造変化の中で、オンラインサロン「コネタの森」オーナーとして、独自視点の経営・経済分析レポートを好評配信中。