事業を進めるうえで資金が大切であることは誰もが知るところです。しかし、資金の流れについては、意外に重視していないケースがあります。そうすると「売上は上がっているはずなのに、お金がない」という状態に陥ってしまうのです。
事業資金というとどうしても「赤字か黒字か」が気になるかもしれませんが、実はとても大事なのが資金繰り(キャッシュフロー)、つまりお金の流れです。ここでは、資金繰りを分かりやすい形で可視化する「資金繰り表」について、表が持つ意味や作り方などをご紹介します。
資金繰り表とは
資金繰り表とは「資金の流れを表す」表です。資金ショートによる倒産を未然に教えてくれる表とも言えるでしょう。いついくらの現金が入金されるか、支払いが必要かなど、将来の入出金に着目した表なので、将来的な経営状態を見通すのに役立ちます。
引用:資金繰り表とは何ですか。なぜ資金繰り表が必要なのでしょうか。
引用:資金繰り表って何ですか?また、どのようにして作成するのですか?
引用:資金繰り表の作り方を覚えるとキャッシュフローを意識した経営ができる
<資金繰り表の例>
引用:資金繰り表って何ですか?また、どのようにして作成するのですか?
なぜ、このような表が必要なのでしょうか。理由のひとつとして、事業においては「売上が出た日と入金日」「仕入をした日と出金日」が必ずしも一致しないということが挙げられます。そのため「商品が売れているので経営に問題はないと思っていたが、実際の入金が先だったので、気づかない間に会社の資金が底を尽いた」という事態が起こり得るのです。
資金繰り表を作成することによってお金が出入りする時期と額が明確になれば、そのような事態は避けられます。また、金融機関から融資を受ける際にも、資金繰り表を提出することで説得力が生まれ、融資審査に通りやすくなるというメリットもあるのです。
資金繰り表はなぜ必要か
資金繰り表が必要なのは、事業におけるお金の流れが見えにくいからと言えます。事業をしていると、例えば「今日納品した商品の売上が入金されるのは2か月後」ということがよくあります。「今日仕入れた商品の代金を支払うのは月末」ということも多く、物が動くタイミングと資金が動くタイミングは必ずしも一致しません。ここが盲点になりやすいのです。
どれだけたくさんの商品が売れたとしても、売上金が入金されるのが相当先だという場合、入金前に会社の資金が底を尽いて倒産するという事態が起こりかねません。
反対に、目先の売上が少なかったとしても、会社に資金が豊富にあれば倒産することはないでしょう。
会社の経営がうまくいっている、あるいはいっていないという判断をするには、売上や利益の大小だけでなく「入金と出金のタイミング」も重要な要素なので、資金繰り表が必要なのです。
引用:資金繰り表とは何ですか。なぜ資金繰り表が必要なのでしょうか。
引用:資金繰り表って何ですか?また、どのようにして作成するのですか?
引用:資金繰り表の作り方を覚えるとキャッシュフローを意識した経営ができる
引用:資金繰り表の作り方を解説
エクセルで資金繰り表を作る方法
資金繰り表には、法的に決まった書式はありません。インターネット上にも多数のテンプレートが紹介されていますし、ある程度会計知識があれば自分で一から作ることもできます。例として「クラウド会計ソフトfreee」公式サイトで紹介されている、エクセルを利用した資金繰り表の作り方についてご紹介します。
引用:資金繰り表の作り方を解説
引用:資金繰り表の作り方(基礎編)
- エクセルの新規作成で必要項目を入力します。
- 罫線やフォントを調整して、使い勝手が良いようにレイアウトします。
- 計算式を入力します。
以上の手順を踏んで、エクセルを使用して資金繰り表を作ることができますが、一から作成するにはかなりの手間と会計知識、エクセル知識が必要です。自信のない人は、既存のテンプレートを使いやすいようにカスタマイズして使うのが良いでしょう。
おすすめのテンプレートについては、のちほどご紹介します。
資金繰り表を作るときのポイント
資金繰り表を作る目的は「お金が入出金する時期や金額を明らかにすること」です。そのため、資金繰り表は帳簿類の数字をもとに作成します。
資金繰り表を作るときに気をつけるべきポイントには以下の2点があります。
- 収支を「「経常収支」「設備収支」「財務収支」に区分する
- 現金の動きに合わせた入出金日にする
以下、それぞれについて解説します。
収支を区分する
単に資金繰り表を眺めても、収支の内訳までは分かりません。そこで、資金繰りのどこに問題があるのかを知るためにおすすめなのが、収支を「経常収支」「経常外収支」「財務収支」の3つに分類することです。
大まかに以下の3つを意識して分類しましょう。
引用:初めてでも作成できる資金繰り表の作り方
- 経常収支
主に売上額・買掛金(後払い金の回収)と、経費支出を比較したものが経常収支です。事業を通じてどれだけの資金が入り、出ていったか、つまり経営の状況を反映しています。一時的な経常収支のマイナスは問題ありませんが、長く続く場合は厳しい経営状況だと判断することが可能です。
- 経常外収支
経常収支以外の項目で、主に設備の購入・売却による資金の流れである設備収支が該当します。設備収支は額が大きく、借入金によってまかなうことが多いため、資金繰り悪化のきっかけになりやすい項目なので注意が必要です。
- 財務収支
金融機関からの融資借入、返済に伴う資金の流れが財務収支です。
以上の3つに収支を分類し、それぞれのバランスを俯瞰すると、会社の資金繰りのどこに問題があるのかが把握しやすくなります。
現金の動きに合わせた入出金日にする
資金繰り表の作成にあたっては、「この収入(支出)をいつの日付にしようかしようか」と迷うことがあります。お金にまつわる日付には、例えば以下のようなものがあります。
- 請求書など書類上の日付
- 締め日
- 入力を行う日付
- 実際に入出金があった日付
収入や支出をいつ付けにするかというのは資金繰りに大きく関わりますが、正しい資金繰り表を作成するためにも、使用する日付は「実際の入出金日」に合わせるのが鉄則と言えます。実際のお金の動きを追うのが資金繰り表を作成する目的だからです。
実際の入金日に合わせてはじめて、リアルなお金の動きが見えてくるので、正確なお金の動きを把握できます。
資金繰り表のエクセルテンプレート
次に、エクセルを利用した資金繰り表のテンプレートをご紹介しましょう。インターネット上には様々なフリーのテンプレートが配布されています。なかでも、ここでご紹介する3つは使い勝手がよくおすすめです。
そのまま使うこともできますが、自社の事業内容や経営の実態に合わせて項目のカスタマイズすると、より使い勝手が良くなります。
クラウド会計ソフトfreee
「エクセルで資金繰り表を作る方法」の項目でご紹介した「クラウド会計ソフトfreee」のホームページでは、資金繰り表のテンプレートを無料配布しています。
freeeの資金繰り表テンプレートには、以下のような使い勝手の良さがあります。
- 手入力するセルは水色、自動計算されるセルはグレーとなっており、分かりやすい。
- 同サイトの「クラウド会計ソフトfreee」で作成した帳簿から、自動的に生成されるため、会計知識がなくても使いやすい。
- 同サイト内にある「資金繰り改善ナビ」との連動により資金状況の確認・予測ができ、資金調達手段のアドバイスが受けられる。
ダウンロードは以下のリンクからできます。利用には無料会員登録が必要です。
https://www.freee.co.jp/kb/kb-accounting/cash_flow_table/
日本政策金融公庫
起業時に融資を受ける金融機関としてよく知られる「日本政策金融公庫」のホームページには、融資依頼や経営計画に関わる様々な書類のテンプレートが用意されています。その中には資金繰り表のテンプレートもあるので利用すると便利です。
引用:日本政策金融公庫 テンプレート
日本政策金融公庫の資金繰り表テンプレートには以下のような使いやすさがあります。
- 簡易版と詳細版があり、使い勝手がよい方を選べる。
- 同サイト内に作成手順、記載例が紹介されていて、会計初心者にも使いやすい。
- 詳細版では、収支項目が「経常収支」「経常外収支」「財務収支」の3つに分類されているため、会社の経営状態の把握がしやすい。
ダウンロードは以下のリンクからできます。
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_chusho.html
スモビバ!
会計ソフトとして知名度の高い「弥生会計」が運営している「スモビバ!」というサイトでテンプレートが配布されています。スモビバ!では、他にもスモールビジネス(個人事業主、中小企業、起業家)の業務や経営に関する様々な情報を閲覧可能です。
引用:スモビバ!資金繰り表
スモビバ!の資金繰り表テンプレートは、以下の点で使いやすいと言えるでしょう。
- 手入力するセルは水色、自動計算されるセルは色なしとなっており、分かりやすい。
- 「事業計画シミュレーション」一式のなかにあり、開業準備にも活用できる。
- 「生活費」の項目があり、個人事業主にも便利。
- 本格的なので会計知識がないと使いこなすのが難しい。ただし「スモビバ!」に資金繰り表作成のポイントが丁寧に説明されているので、初心者でも利用できる。
ダウンロードは、以下のリンクから可能です。
https://www.sumoviva.jp/knowledge/business-plan/business-plan-simulation_20161221.xlsx
また、スモビバ!による資金繰り表作成のポイントは以下のリンクで紹介されています。
https://www.sumoviva.jp/knowledge/business-plan/business-plan-011.html
よりよい資金繰り表作りのコツ
せっかく資金繰り表を作成するなら、しっかり活用したいものです。では、よりよい資金繰り表を作成するためにはどこに注目すればよいのでしょうか。
よりよい資金繰り表を作成し、活用するコツは以下の2つです。
- 損益計画を正確に立てる
- 状況に応じて手直しする
その理由とメリットについて解説します。
損益計画を正確に立てる
損益計画とは、事業の損失と収益を見通し、黒字にするための計画です。起業時には、その事業でどれだけの売上があがり、利益が得られるかを計画して「損益計画書」にまとめます。損益計画は、融資にも必要な事業計画書に盛り込まれる大切な要素です。
売上高や経費、借入返済など、損益計画で注意すべきポイントは資金繰り表作成のポイントと共通です。損益計画と資金繰り表を見比べることにより、当初の計画のうち順調な点とうまくいっていない点を早い時点で把握できます。
損益計画書が正確かつ緻密なものであるほど、計画と現実との差がより明確になります。
損益計画書の例は、以下の通りです。
引用:損益計画の書き方
起業時に詳細の試算が難しければ、同じ業界の平均的な売上原価率の指標を参考にすると良いでしょう。日本政策金融公庫のホームページで詳細を確認することができます。
引用:日本政策金融公庫 中小企業事業
状況に応じて手直しする
資金繰り表には決められたフォーマットがありません。項目設定や盛り込む情報は、自分で自由にカスタマイズできます。事業を進める中で「この項目はいらなかった」「ここはもう少し細かく分類しておくべきだった」と感じることがあれば、状況に応じてどんどん手直しし、より正確に資金繰りを把握できるようにしていきましょう。
例えば、「スモビバ!」で配布されているとご紹介したテンプレートでは、経費項目が人件費、地代家賃、支払利息、通信費、といったように順に並んでいます。
自分は個人事業主だから人件費欄は不要、あるいは広告宣伝費は取引量の多いA社とそれ以外を分けて考えたいなど、実情に合わせて手直しをするとより使い勝手が向上します。
人件費欄を削り、広告宣伝費をA者とそれ以外に分けて手直しをすると、以下のようになります。
<手直し前>
↓「人件費」を削除。「広告宣伝費」を「A社」「A社以外」に区分
<手直し後>
この表は月単位の構成ですが、使いやすさに合わせて週単位、1日単位の表に作り直してさらに詳細な資金繰り状況把握に活用することも可能です。
まとめ
起業し、事業経営をしていくにあたって避けて通れないのが資金繰りですが、意外と把握できていないというケースも少なくありません。正確な経営状況の把握のために「資金繰り表」は非常に重要です。会計はプロに任せるという方も多いですが、自分でもある程度資金繰り表について理解しておくことは経営者として大切です。資金繰り表作成用のフリーテンプレートやクラウド会計システムなどを上手に取り入れましょう。資金繰りをしっかり把握し、着実な事業経営を行っていくことをおすすめします。