「起業したい」と思っても、何から始めていいかわからない人も多いのではないでしょうか。まずは起業までの流れを知り、綿密に事業計画を練り、自分がやろうとしている事業内容を明確にすることが事業展開につながります。本記事では、起業の流れと必要事項について解説します。
起業の仕方・流れを知っておくことが大事
起業する際には、十分な計画を立て、準備を進める必要があります。実際に事業をスタートするまでに必要なステップは下記の7つです。起業の流れを念頭に置いて、効率的に準備を整えましょう。
<起業の仕方・流れ>
- 起業の目的・意義を決める
- 起業する事業のアイデアを決める
- ビジネスモデルを決める
- 事業計画書を作成する
- 資金を調達する
- 起業手続きや各種届出・許認可を行う
- 事業スタート
この7つのステップについては、以下で、詳しく説明します。
起業の仕方 ❶起業の目的・意義を決める
最初に「なぜこの事業を起こすのか」という起業の目的や理由を明確にしましょう。目的が曖昧だと、準備を進めるうちに方向性を見失う可能性も高まります。まずは起業して実現したいことや、起業することによる社会的な意義を書き出します。また、個人事業主になることと起業するメリット・デメリットを比較してみると、起業の必要性が浮き彫りになるでしょう。
起業の仕方 ❷起業する事業のアイデアを決める
目的と意義が固まったら、次は事業アイデアを練り上げます。以下に、例を挙げましたので、ぜひ参考にしてください。
- 既に持っているリソースや得意分野を生かす
前職のノウハウを生かして起業する方は多いでしょう。技術や経験は大きな財産です。また、前職の取引先を引き継ぐケースもあります。
- 採算性が見込める事業に注力する
収益を重要視するなら、より採算性が高い事業に絞り込むのもひとつの方法です。ただし、一点集中するには相応のリスクがあることも考えておきましょう。
- 隙間産業を狙う
大手企業があまり着手していない隙間産業(ニッチ・ビジネス)も、チャンスの多い分野と言えるでしょう。限られた領域で優位性を握るため、マーケティングが重要です。
- 具体的な顧客層がイメージできる事業を選ぶ
顧客層から事業を発想するのもひとつの方法です。狙った顧客層の需要をリサーチできるかどうかが集客に大きく影響します。
起業の仕方 ❸ビジネスモデルを決める
事業アイデアが決まったら、次に「ビジネスモデル」を決めましょう。ビジネスモデルとは、経営方針や収益構造、社員構成などを取り込んだビジネス全体の設計図のことで、アイデアを収益に結びつけるために必要不可欠なものです。
- 新規で立ち上げる
自社の計画に合わせたビジネスモデルをゼロから構築することにより、事業の概要を俯瞰できます。問題点や補強すべき点などにも気づきやすくなるので、早期に修正ができるのもメリットです。
- 既存のモデルをアレンジする
成功した企業のビジネスモデルをベースに、計画している事業に合わせたアレンジをするのも一つの方法です。同業種だけでなく他業種も参考になることがあります。
- 既存のモデルの質を上げる
成功した既存のモデルを取り入れながら、クオリティ(質)を上げる方法もあります。大手企業も他社モデルの研究を行い、質の向上に励んでいるケースもあります。
起業の仕方 ❹事業計画書を作成する
事業アイデアを、書き起こして整理したものが「事業計画書」です。融資を受ける際には必須の書類です。対外的に事業を説明するツールにもなります。そのため、他者が読んで理解しやすい内容にすることが肝心です。事業計画書を作るときの3つのステップを以下にご紹介します。
<事業計画書を作る3ステップ>
- 顧客ターゲットを決める
- 市場・競合調査を行う
- 事業計画書を作成する
①顧客ターゲットを決める
顧客ターゲットを絞り込むと、事業の具体的なイメージをつかむことができます。マーケティング用語で、ひとりの具体的な仮想ターゲットを「ペルソナ」と言いますが、まずは核になる顧客層のペルソナを設定してみてください。そして、商品やサービスの提供内容を考えます。これを行うことで、仮設が立てられ、ターゲット層への訴求が可能となります。
②市場・競合調査を行う
顧客の動向を探るための市場調査とともに、競合他社の成功例と失敗例をリサーチすることも、自社分析につながります。事業計画の改善点がクリアになるので、早期の軌道修正が可能です。また、計画にまつわる理論や数値の根拠を裏付けることができるので、融資の際に分析力が評価されて有利になります。
③事業計画書を作成する
「事業計画書」は、他者に対して「なぜこの事業が成功するか」を説明する資料になります。客観的に見て理解しやすいように作るのがポイントです。特に重要視される必須項目を以下の表にリストアップしました。
事業内容 | 事業の名称、コンセプトや理念、ターゲット、主力商品、サービスの内容など、概要の把握できる情報を具体的に記載します。 |
市場環境 | 事業の市場環境を調査して顧客の動向を分析。それに対するマーケティング戦略を明確にすることで、事業が成功する理由を裏付けます。 |
競合優位性 | 競合する他社を複数調査し、成功例と失敗例から分析されたデータを抽出。自社の計画内容と照らし、市場での優位性を証明します。 |
経営プラン | 開業までのスケジュールや、開業後にどのような事業展開をするかのプランを具体的に記載します。 |
リスクと解決策 | 開業後に起こり得るリスクを想定し、それに対する解決策を決めておきます。 |
資金計画 | 売上、原価、人件費、設備など、事業に関わる資金の流れをまとめ、返済プランとともに財務計画書にします。 |
起業の仕方 ❺資金を調達する
創業資金の調達は、起業者にとって大きなミッションです。融資を受ける場合は、事業の規模や種類、自己資金の額や担保の有無などによって限度額や金利が変わるので、金融機関の融資条件をしっかりと確認しましょう。
<資金調達方法>
- 自己資金
- 家族・友人から借りる
- 銀行からの融資
- 新創業融資
- 中小企業経営力強化資金
- 補助金・助成金の受給
自己資金
他から借りることなく、自分で資金をためる方法です。自由に資金を使うことが可能です。また融資を受ける際も、自己資金の額は審査の対象になるため、起業を志したときから地道に資金を貯めておくとよいでしょう。多くの人が利用する「日本政策金融公庫」の調査では、創業資金総額に占める自己資金の割合は約3割となっています。
引用:よくあるご質問 創業をお考えの方
引用:自己資金はどれくらいあればよいですか?
家族・友人から借りる
家族や友人から借りる方法です。「日本政策金融公庫」のデータによると、親族からの借入は全体の6%で平均額76万円、友人その他からの借入も6%で平均69万円です。家族や友人からの借金は、返済が滞った場合に、人間関係に影響する恐れもあるので注意が必要です。また、借入でなく援助されたお金には贈与税がかかります。
銀行からの融資
銀行融資には主に「証書貸付」「手形貸付」「手形割引」「当座貸越」の4種があり、日本政策金融公庫やその他金融機関での事業融資は、一般的に証書貸付となります。証書貸付は低金利ですが提出する書類が多く、審査も厳格です。また、審査を通過してから着金まで日数を要するので、早めに準備に取り掛かることをおすすめします。
引用:銀行からの融資で審査に通るためのポイントをご紹介!!
新創業融資
「新創業融資」とは、日本政策金融公庫の融資の一種です。無担保・無保証人で利用できるのが魅力ですが、借入は新たに起業する人や事業を始めたばかりの人に限定されます。また、雇用の創出を伴う事業など事業形態の要件や、創業時に創業資金総額の1/10以上の自己資金が口座にあるなど、設定されている自己資金に関する要件について確認が必要です。
引用:日本政策金融公庫:新創業融資について
中小企業経営力強化資金
中小企業経営力強化資金は、日本政策金融公庫の融資の一種で、国民生活事業と中小企業事業に設定されています。以下の2つの借入条件のどちらかを満たすことが必要です。
- 市場の創出・開拓を行おうとしており、認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている人
- 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」に適用している、あるいは適用予定であり、事業計画書を策定する人
補助金・助成金の受給
起業に必要な費用の一部を、国や地方公共団体が提供してくれる補助金・助成金の制度があります。助成金は一定の要件を満たせば返済不要で受給できますが、補助金は予算の枠組みが決まっており、締め切りがあります。例えば、全国の認定市区町村で年一回募集が行われる「地域創造的起業補助金」では、交付後5年間は収益状況を示す資料を提出する必要があり、もしその期間に収益が一定額を上回った場合には収益に応じて返還義務が生じます。また、審査に通っても受給までに2~3カ月程度かかるので確認しておきましょう。
引用:地域創造的起業補助金
起業の仕方 ❻起業手続きや各種届出・許認可を行う
会社を設立するのか個人事業主になるのかによって、起業に必要な書類は異なります。また、業種によっては許認可の申請が必要な場合があります。例えば飲食業であれば、保健所に飲食店営業許可申請、消防署に防火対象物使用開始届を行うほか、深夜0時以降の営業をする場合には警察署に深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出の提出が必須です。また、従業員を雇用する場合は、社会保険や労働保険の加入が必要になります。
引用:よくあるご質問 創業をお考えの方
引用:東京消防庁:工事・使用開始
引用:警視庁:深夜酒類提供飲食店営業(様式一覧)
会社設立
会社設立の手続きに必要な期間はおおむね2週間と言われていますが、手続きのプロセスによって差が出ることがあります。必要な提出書類を以下の表にまとめているので、確認してください。
必要な書類 | 提出先 |
【定款】 会社の根本規則を記載したもので、創業の際には定款を作成して公証人から認証を受ける必要があります。記載内容は、絶対的記載事項(商号・目的・本店の所在地・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額・発起人の氏名及び住所・発行可能株式総数)および任意の会社基本ルールです。 |
公証役場 |
【発起人会議事録】 定款に本店所在地の詳細な住所の記載がない場合や、設立時の代表取締役を選任していない場合、作成する必要があります。「本店所在地決定書」または「設立時代表取締役選定決議書」とも言われます。 |
法務局 |
【登記申請】 会社の法人登記に必要な書類は全部で12種類あり、そのうち株式会社・合同会社ともに必要なものは下記の8種類です。
条件によって提出が必要な書類は下記の4種類です。
|
法務局 |
個人事業
個人事業主となる場合は、税務署で用紙をもらうか、ホームページからダウンロードした開業届を提出します。早ければその日のうちに終わります。開業届を提出すると、税制上有利な青色申告ができるようになります。
必要な書類 | 提出先 |
【開業届】 開業をした日から原則1カ月以内に提出することになっていますが、提出をしなくても事業所得を確定申告した時点で、税務署からは事実上の開業と判断されます。 |
税務署 |
起業の仕方 ❼事業スタート
起業の準備が整い、必要な書類も全て提出して手続きが済んだら、いよいよ事業のスタートです。開業直後は想定外の出来事に見舞われることも少なくありませんが、事業計画書を確認しながら軌道から逸れないように一つひとつ進めていきましょう。なお、事業がスタートしてからも役所関係や銀行関係の対応など、やらなければならないことはたくさんあります。抜け漏れがないよう、スケジュール管理をしっかりと行うことが重要です。
起業に失敗しないためには
起業を志す人は、早く事業をスタートしたいと焦りがちですが、手順をおろそかにせず着実に進めたほうが結果的に成功する可能性が高くなります。また、市場・競合調査や事業計画書は、結果を自分の都合のいい方向に曲げて解釈したり、主観が入りすぎたりすることが多いため、可能な限り第三者にチェックしてもらい、冷静な視点からアドバイスをもらうと良いでしょう。
まとめ
起業を志してから事業がスタートするまでの流れを解説しました。アイデアから手続きまで、やることが多くて大変と感じることもありますが、コツコツとていねいに進めていくことが成功につながります。手続きの中には申請あるいは書類提出から結果が出るまで日時を要するものもあるので、スケジュールに余裕を持って進めることをおすすめします。