一括償却の使い方/少額減価償却資産の特例についても解説

資産価値が使用年数と共に低下する10万円以上の固定資産は減価償却の適用対象となりますが、一括償却で会計処理をしたほうが節税になる場合があります。また、一度に全額を損金化できる少額減価償却資産の特例もあるので、最も節税効果が高い方法を選ぶことが大切です。

 

今回は、一括償却のメリット、減価償却や少額減価償却資産の特例との違いなど「一括償却の使い方」についてわかりやすく解説します。

 

1.一括償却とは

一括償却とは取得価格が10万円以上20万円未満の固定資産を3年間で均等に償却する方法です。減価償却と一括償却は何が違うのでしょう?両者の違いについて説明します。

 

(1)減価償却とは

減価償却とは、固定資産の取得価格(購入代金+付随費用)を耐用年数で分割して計上することです。法定耐用年数は資産ごとに定められていて、耐用年数表に一覧が記載されています。

 

参考:東京都主税局

https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shisan/info/taiyo_nensu.html

 

例えばパソコンだと、「器具及び備品→事務機器及び通信機器→電子計算機→パーソナルコンピューター」の扱いとなり、耐用年数は4年なので4年間かけて会計処理します。

 

償却費の主な計算方法は定額法と定率法の2種類です。定額法は取得価格を均等に分割して毎年同額の償却費を計上する方法。定率法は、初年度が最も償却費が高く使用年数と共に償却費が徐々に減っていきます。

 

【定額法と定率法の例】

1年目 2年目 3年目 4年目
定額法の償却額 3万円 3万円 3万円 3万円
定率法の償却額 7万円 3万円 1.5万円 0.5万円

 

減価償却が適用されるのは時間の経過と共に資産価値が減少する固定資産のみで、使用期間が1年以上で取得価格が10万円以上のものに限ります。建物や設備の有形固定資産に加えて、ソフトウエアや特許権の無形固定資産も減価償却の対象です。対象外になるのは、土地、棚卸資産、未使用や稼働休止中の資産などです。

 

(2)一括償却資産とは

一括償却で会計処理をする時には「一括償却資産」という勘定名目で帳簿に記載します。一括償却の対象は10万円以上20万円未満の減価償却資産です。

 

減価償却と一括償却の違いは、損金に算入する期間と償却費の計算方法です

 

減価償却は資産ごとに耐用年数が異なり耐用年数に応じた期間となりますが、一括償却は一律で3年と決められています。

 

そして、償却費の計算方法が2種類ある減価償却と違い、一括償却資産は「3年均等償却」のみです。以下のように、固定資産の取得金額を年度ごとに1/3ずつ会計処理します。

 

 

償却費=取得価格合計×事業年度の月数÷36

 

 

一括償却の注意点は、以下の2点です。

・年度途中で資産を取得した場合に月数按分しない

・年度途中で売却や除去しても予定通り3年で均等償却する

 

使用期間が1年以上で資産価値が減少する10万円以上20万円未満の固定資産を取得した際には、「減価償却」と「一括償却」のいずれかが選べます。

 

一括償却に該当するかの判断基準は、1個、1組、1台、1基など1単位の取得価格です。機械なら1台あたりの取得価格ですが、応接セットはテーブルと椅子それぞれの価格ではなくテーブルと椅子を合わせた1そろいの価格で判定します。取得価格が20万円未満なら一括償却で処理できます。

 

次は、一括償却を選ぶと、どんなメリットがあるのかを見ていきましょう。

 

2.一括償却のメリット

一括償却の1つ目のメリットは、減価償却に関わる事務負担が軽くなることです。減価償却にすると、耐用年数を調べ、定額法か定率法に当てはめて資産ひとつひとつの償却費を計算しなければなりません。3年均等償却の一括償却にすれば、それらの手間が省けます。

 

2つ目のメリットは、一括償却にすれば償却資産税の課税対象にならないことです。償却資産の合計が150万円以上になると償却資産税を納める義務があり、減価償却は課税対象ですが一括償却は課税対象ではありません。償却資産が150万円以上ある場合は、一括償却にしたほうが節税になります。

 

3つ目のメリットは、費用を前倒しで計上処理できることです。耐用年数4年のパソコンを例にすると、減価償却は4年かかるのに対し一括償却は3年です。耐用年数が3年を超える資産は、減価償却よりも一括償却のほうが短期間で損金に算入できます。

 

ただし、初年度に多額の償却を行う定率法を用いた場合には、減価償却のほうが1年目の償却費が高くなります。短期的に見た場合には、実際の償却費を計算してみないとどちらがお得かは分かりません。その時点での財務状況に合わせて、最も有利だと予測できる償却方法を選ぶことが大切です。

 

また、「少額減価償却資産の特例」を選択したほうが、より節税効果が高い場合もあります。次は、少額減価償却資産の特例について説明します。

 

3.少額減価償却資産の特例

少額減価償却資産の特例とは、取得価格30万円未満の減価償却資産が一度で全額を損金に算入できる特例で、中小企業者等が対象です。しかし、一定の要件を満たす必要があります。

 

一定の要件とは、青色申告書を提出している、資本金が1億円以下、従業員数1,000人以下など。大規模法人が株式の大半を所有している法人は対象外です。また、経費として計上できるのは年間300万円までです。

 

一定の要件を満たす中小企業者等は、10万円以上20万円未満の固定資産を「減価償却」「一括償却」「少額減価償却資産の特例」から選んで償却できます。最も早く損金化できるのは「少額減価償却資産の特例」です。

 

注意点は、一括償却は償却資産税の課税対象外ですが、減価償却と少額減価償却資産の特例は償却資産が150万円を超えると課税対象になることです。

 

4.まとめ

一括償却は10万円以上20万円未満の減価償却資産を3年で均等償却する会計処理です。通常の減価償却に比べると一括償却には様々なメリットがありますが、条件によっては定められた年数よりも耐用年数が短くなる固定資産も存在します。

 

一括償却がお得に見えても、実は減価償却にしたほうが節税できるケースもあるので注意しましょう。最も効果的な節税対策は、税制に詳しい専門家の意見を聞くことです。資産を購入した際には、税理士に相談することをおすすめします。

 

執筆者:宮林 有紀(みやばやし ゆうき)

医療機関勤務を経てフリーライターへ転身。起業家向けメディアへの執筆をはじめ様々なジャンルのサイトにて執筆。