棚卸とは/在庫管理の基礎を解説

「棚卸は時間がかかり過ぎる」と、頭を悩ませている事業者も多いのではないでしょうか。さまざまな商品を取り扱う卸・小売業では、棚卸に予想以上に時間を割いてしまうことも少なくなく、「何のためにやっているのだろうか」と疑問が出てくるかもしれません。

 

無駄な時間とコストを省いた棚卸をするには、その必要性と作業を明確にすることです。本記事では、棚卸の目的や手順など、在庫管理の基礎についてわかりやすく解説します。

 

1 棚卸の目的

棚卸をする最大の目的は、会社を健全に運営するため、ということに尽きます。

 

在庫(商品)は会社にとって売れれば利益をもたらし、売れなければ経費を圧迫します。そこで必要になるのが、現場にある在庫を数えて管理する、棚卸という作業です。事業者は、損益の状況を正確に把握できるように、棚卸を適切におこなう必要があります。この章では、棚卸の具体的な目的3つをご紹介します。

 

目的1 在庫の原価を把握して利益を管理するため

在庫を考慮せずに把握している利益は、実際のものと異なります。把握している利益と、実際の利益との差が大きくなると、会社の経営に悪影響が出るかもしれません。

 

例えば、1ヶ月に1個50円の商品を100個仕入れたとします。そのうち50個を1個あたり150円で販売し、50個が在庫として残りました。この場合、その月の売上は7,500円、仕入れは5,000円、在庫は2,500円です。売上総利益は、売上から売上原価(仕入れ-在庫)を差し引いた額で算出されますので、ここでは、7,500円-(5,000円-2,500円)=5,000円となります。

 

もし、「7,500円の利益が出た」としてしまうと、実際の利益との間に大きなズレができてしまいます。棚卸を実施することで、正確な利益を把握することが可能になります。

 

目的2 適正な在庫水準を把握するため

在庫水準とは簡単に言うと、在庫の欠品や過剰をできるだけ避けるために、在庫を適正な状態に保つ指標のことです。

 

在庫水準は画一的ではなく、在庫水準の求め方にも諸説があり、統一されているわけではありません。過去のデータなどから在庫水準を決める必要がありますが、「棚卸資産回転期間(在庫回転率)」は、一つの目安として利用されています。例えば、在庫回転率(売上原価 ÷ 平均在庫金額)を割り出し、目安を20日とした場合、それよりも回転期間が長くなれば回転率が悪いと判断し、「原因は過剰在庫や不良在庫が多いからでは」と、考えられるようになります。

 

このように、棚卸によって適正な在庫水準を設定することで、過剰在庫や不良在庫を出さないよう調整が可能になります。

 

目的3 資金繰りを改善するため

資金繰りを改善するためには、正しい損益計算が不可欠です。棚卸を怠ると、正しい損益計算ができなくなり、資金繰りが悪化するリスクが高まります。

 

在庫が増えると、在庫金額が大きくなっていきます。つまり、現金化されていない資産が増え、資金繰りが困難になる状態です。在庫が増えるのは、売れない商品を過剰に仕入れる、在庫管理が適切に行われていないなどが原因と考えらます。この状況を避けるには、定期的に在庫をチェックして、無駄に在庫を増やさないようにすることが不可欠になります。

 

棚卸をすれば、損益の状況を正確に把握できます。それにより、無駄な仕入れを防いだり、過剰在庫が増えすぎる前に対策を講じたりできるようになるでしょう。

 

以上のことから、棚卸の目的は、現場の在庫を正確に把握して、利益を適切に管理するためであることがわかります。

 

2 棚卸の手順

棚卸を効率良くおこなえば、無駄な時間や人件費をかけずに済ませることが可能です。ここでは、商品在庫を取り扱う卸・小売業を例に、棚卸の手順について、解説します。

 

(1)  棚卸表の作成

卸・小売業で言う「在庫」とは「商品」のことです。つまり、棚卸では商品を管理することになりますので、まずは棚卸表(在庫リスト)を作成しましょう。

 

棚卸表には、次のような記載項目が必要になります。

①棚卸実施日

②商品名

③商品コード

④個数

⑤単価(税込または税抜で表示)

⑥合計金額(個数×単価で算出)

⑦在庫状態(破損など商品の状態を記録)

 

棚卸の書式は決まりがありませんので、エクセル等作成しやすい方法を選ぶと良いでしょう。

 

(2)  品目ごとの数量確認

棚卸には、「実地棚卸」と「帳簿棚卸」の2種類あります。どちらも確認した在庫状況を記録することが目的ですが、帳簿棚卸は帳簿上での在庫の出し入れをチェックし、実地棚卸は、現場の在庫を数えて記録します。実地棚卸は、帳簿棚卸と異なり、実際の在庫状態が把握できるというメリットがあります。

 

実地棚卸では、品目ごとの数量確認がおもな作業になります。その際、確認ミスを防ぐために、スタッフ間で数え方を統一させておくことが不可欠です。もし、スタッフによって商品の数え方が異なると、数字が合わなくなり、正しい在庫数を把握できなくなるからです。ルールがなければ、3個の箱詰め商品があった場合、スタッフによっては1と数えたり、「商品だから1個ずつ」と判断し、3と数えたりする可能性が考えられます。

 

実地棚卸は正確さが求められる作業です。実施前は、必ずスタッフに数え方のルールを伝えるようにしましょう。

 

(3)  在庫の評価方法

現場の在庫を適切に把握するということは、棚卸資産を正確に計算することに繋がります。棚卸資産は「低価法」または「原価法」の評価方法で計上されます。

 

低価法とは、商品を仕入れた時の原価と、評価時点での時価(期末の時価)を比べ、安い方を評価額に選ぶ方法です。原価法はその名の通り、商品を仕入れた時の原価を評価額とする方法です。原価法にはいくつか種類があり、中でも「最終仕入原価法」が一般的な方法と言われています。この方法は、その年の最終日に仕入れた原価を単価とし、評価額を算出します。

 

どちらの評価方法を選んでも問題ありませんが、同じ評価方法を継続して採用するのが原則です。

 

3 棚卸の注意点

棚卸の際に、気をつける点がいくつかあります。特に注意したいのは、「実地棚卸は時間に余裕を持って実施する」と「不良在庫の処分は適切におこなう」の2つです。それぞれ詳しく説明します。

 

①実地棚卸は時間に余裕を持って実施する

実地棚卸は、在庫を一つ一つ数え、すべての数量を確認するという、骨の折れる作業です。在庫は正確に把握する必要がありますので、時間に余裕を持って実施することが重要なポイントと言えるでしょう。

 

実地棚卸は、決算日にあわせて実施するというのが一般的です。そのため、決算日当日に棚卸をすれば良いと思うかもしれませんが、その日までに、実際の在庫数と帳簿上での在庫数を合わせておく必要があります。

 

実地棚卸は、決算日当日ではなく、数日前におこなうよう調整しましょう。その際、次の点を考慮します。

・確認する在庫の数量

・スタッフのスケジュール

・在庫の入出庫予定

 

実地棚卸の実施には、まとまった時間が必要です。半日または丸一日店を閉めて作業できる日を選び、じっくり取り組める環境を整えましょう。

 

②不良在庫の処分は適切におこなう

実地棚卸では、在庫数を正確に把握するだけなく、在庫状態も確認します。在庫の中には、不良品など商品として売れないものも含まれている可能性があるからです。不良品を在庫として残すことは、無駄に管理コストをかけてしまうことになりますので、棚卸で明らかにし、処分する必要があります。

 

品質の面から「売れない」と判断される在庫はカウントせずに不良在庫とします。たとえ品質に問題がなくても、長期間出荷が止まり、資金繰りに悪影響を与える在庫も、カウントせず停滞在庫(不良在庫)として区別します。

 

不良在庫の処分方法には、大きく分けて「売却する」と「廃棄する」とがあります。不良在庫を値引きして売却した場合、利益として計上します。専門業者に依頼して処分した不良品は、特別損失にあたる「商品廃棄損」として会計処理が可能です。

 

このように、在庫状態を正確に把握することで、適正な会計処理ができると同時に、不良品の出荷防止が可能になります。

 

4 まとめ

棚卸の目的と手順、そして注意点について説明しました。棚卸は、会社を健全に運営する上で必要な作業です。棚卸を実施することで正確な損益の把握が可能になり、それが資金繰りの改善など、会社の発展に必要な行動に繋がります。

 

本記事を参考に、棚卸の目的を明確にして、必要な作業を効率良くおこなっていきましょう。

 

執筆者:佐藤 世莉(さとう せり)

英国の大学と大学院で社会学、国際政治学、国際関係学を学び、2018年、フリーランスのWebライターとなる。幅広いジャンルの記事を執筆し、得意分野はビジネス、起業、就職、教育。「考えて書く」ことをモットーに、Webコンテンツをはじめ文章構成や要約文、論文、翻訳など、さまざまなライティング活動を展開中。ロジカルシンキングマスター、論理的思考士、WEBライティング実務士の資格を保有。