知的財産権の基礎/種類別に解説

知的財産権とは,著作権や特許権,意匠権など,人間の精神的・知的活動の結果として生じる創造物に関する権利をいいます。知的財産権は社会の発達とともに重要な役割を担うようになりましたが,その具体的な権利内容や権利侵害の可能性等につき詳しく理解している人は少ないのではないでしょうか。そこで今回は知的財産権の基礎について簡単に解説していきます。

 

1,知的財産権とは

 

(1)知的財産とは

 

知的財産権とは,知的財産に係る権利です。たとえば発明,考案,植物の新品種,意匠,著作物のように,人間の精神的・知的活動から生じる創造物のうち,財産的価値が見出されるものを「知的財産」といいます(知的財産基本法第2条第1項)。

 

(2)知的財産権とは

 

知的財産権は,以上のような「知的財産」に係る財産上の権利です。

 

この点,知的財産基本法第2条第2項では「知的財産権」とは,特許権,実用新案権,育成者権,意匠権,著作権,商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利または法律上保護される利益に係る権利であると規定されています。

 

たとえば,映画や音楽,小説などの著作物を保護する著作権,物や方法の発明を保護する特許権などがこれにあたります[1]

 

(3)知的財産権制度

 

知的財産権は,人間の精神活動の結果として創作されるアイディアなどを対象としています。

 

したがって,①情報であることから容易に模倣が可能で,②利用により消費されないため多数人が同時に利用できるという特性を有するので,結果として「創作者の権利を保護する必要」が生じてくるのです。

 

そこで、本来自由に利用できるはずの情報につき,創作者の権利を保護するためこれを一定限度で制限する制度が,知的財産権制度なのです。

 

2,知的財産権の種類

 

現在わが国で法的保護が認められる知的財産権には(1)特許権,(2)実用新案権,(3)意匠権,(4)商標権,(5)育成者権,(6)著作権,(7)地理的表示法などがあります[2]

 

以下,簡単にみていきましょう。

 

(1) 特許権

 

特許権とは,特許を受けた「発明」を権利者が一定期間独占的に使用できる財産権で,その内容や要件などは,特許法に規定されています。

 

特許法でいう「発明」は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」とされています(特許法第2条第1項)。

 

そのため「ニュートンの万有引力」のような自然法則そのものや,金融保険制度,計算方法・暗号などそもそも自然法則を利用しないものは含まれません。

 

また,容易に発明できるものは含まれず,産業上利用可能な発明に限られるうえ,新規性(世の中や業界内などですでに知られていない新しい発見であること)が必要です。

 

たとえば,こするだけで文字が消せるボールペンや,ノーベル賞で話題となったiPS細胞に関する基本技術などがこれにあたります。

 

特許庁に特許権を申請しこれが認められた場合,権利者は①発明による使用を独占でき,また,②第三者による無断利用を排除することができます。

 

とはいえ,時代の変化とともに,既に世の中で一般的になった技術をいつまでも排他的に保護していては,技術進歩の妨げになってしまいます。

 

そこで,特許権の存続期間は出願日から原則20年[3](医薬品などで例外的に延長が認められる場合は最長25年[4])とされています。

 

(2) 実用新案権

 

実用新案権は「実用新案法」により保護される「考案」です。ここにいう「考案」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作(実用新案法第2条第1項)であり,特許権における発明レベルまではいかないものの「ちょっとした何か新しい発見」がこれにあたります。

 

たとえば,取り替えモップシート,鉛筆の端に消しゴムを付けることなど,日用品の構造の工夫などが挙げられます。

 

実用新案権を取得するメリットは,特許庁での審査が不要であるため,コストと時間が節約できるところです。

 

他方,権利期間は登録出願日から10年[5]しかないうえ延長制度もないので,特許権より短い点がデメリットといえるでしょう。

 

(3)意匠権

 

商品の売れ行きを左右するのは機能だけではなく,そのデザインも重要な役割を担っています。そこで,「意匠法」では,製品,建築物や画像などにおける形や模様,色などの各要素からなるデザイン,すなわち「意匠」を保護する意匠権を規定しています(意匠法第2条第1項)。

 

基本的には量産販売を予定する商品が対象ですので,たとえば石や植物などの自然物,絵画や彫刻のような一品製作物[6]は除外されます。

 

意匠権の具体例としては,腕時計,美容マスク,家具,ゲーム機,パソコンやスマートフォンなどといった製品の外観や,アプリなどのアイコン画像などが挙げられます。

 

なお,従前,不動産は意匠法の保護対象ではありませんでしたが,2020年4月から施行された改正意匠法により建物の外観やデザインも対象に含まれることになりました。

 

意匠権の申請には所定事項を記載した「意匠登録願」を特許庁長官に提出し,また,そのデザインを示した図面を添付しなければなりません。

 

デザインこそが意匠権の保護対象ですので,上下左右からの写真などいわゆる六面図や断面図など,視覚的にも詳細な情報が必要です。

 

なお,意匠権の有効期限は従前15年または20年でしたが,前述の意匠法改正により,現在では出願から25年[7]となっています。

 

(4)商標権

 

商標とは,一言でいえば商品やサービスの目印やトレードマークです。消費者は,特定の目印やトレードマークを信用して商品やサービスを購入・利用します。

 

そのため,他社が自社のトレードマークを勝手に使い,結果として消費者がその他社商品を購入・利用することになれば,自社に営業上・信用上の損害が発生します。そこで,商標法は事業者の利益を守るために商標権を認めているのです。

 

法律上「商標」とは,人の知覚によって認識することができるもののうち,文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩またはこれらの結合,音その他政令で定めるもの(商標法第2条第1項)とされています。

 

商標の例には,シンボルキャラクター,会社のテーマ曲としてCMなどでも馴染み深い音楽,コンビニの看板の色使いなどがありますが,商標権はこれらの商標を独占的に使用できる権利です。

 

さらに,商標権は売却できますので,これを売却して利益を得たり、ライセンス契約により使用料を取得したりすることもできます。

 

商標権は「使用する商品やサービス」と当該商標(マークなど)をセットで登録し,登録後も使い続けることが必要です。

 

また,商標権はその登録から10年の有効期限がありますが申請すれば何度でも更新が可能です。

 

(5)育成者権

 

育成者権は,花や野菜など商業植物の新品種創作の保護のため「種苗法第19条以下」により認められる知的財産権です。

 

新品種の育成には専門的知識や技術,長期間の労力や多額の費用が必要であるにもかかわらず,出来上がった新品種の増殖は比較的容易です。

 

これでは苦労して新品種を作り出したとしても十分な利益が確保できません。

 

そこで「品種登録」により「育成者権」を付与し,育成者以外の者による無断増殖・販売を禁止して,育成者とその許諾を受けた者らの経済的利益を保護することにしたのです。

 

育成者権の有効期限は登録の日から25年(果樹などの永年性植物は30年)ですが,この権利を維持するためには毎年の登録料を支払う必要があります。

 

育成者権が認められると,育成者は,無断販売などといった権利侵害行為の予防や停止を請求することができます[8]

 

また,2021年4月から,指定地域外での栽培制限と海外への持ち出し制限が可能になりました。

 

さらに,2022年4月からは,自家栽培にも育成権の制限がかかることになる予定です。

 

育成者権を業として故意に侵害すると,

①個人の場合は10 年以下の懲役または併科 1,000 万円以下の罰金(種苗法第67条

②法人の場合3億円以下の罰金(種苗法第73条)

の刑事罰が課されるなど,処罰が重いので[9],違反しないよう注意しましょう。

 

(6)著作権

 

著作物とは,思想または感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条第1項)をいいます。

 

たとえば,絵画や小説,音楽,アニメや漫画,映画や動画,写真,地図などがこれにあたります。「創作的」という要件から,単なる模倣作や誰でも作れるありふれたものなどは著作物には含まれません。

 

著作権は著作物が創造された時点で成立し,特許権や商標権等のような行政機関や特許庁などへの申請手続きは必要ありません。

 

著作権者は著作物に関する利用を排他的に独占できます。また,第三者の無断利用について,差し止めや損害賠償請求を行うことができます。

著作権の保護期間は,原則として著作者の生存年間及びその死後70年間です[10]

 

 

(7)地理的表示法

 

地理的表示法(GI法)」は,正式名称を「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」といい,特定の産地と品質などの面で結び付きのある農林水産物・食品などの名称(地理的表示)を知的財産として保護[11]しています。

 

たとえば北海道の夕張メロンや三重の特産松阪牛,福井の越前蟹などが,具体例として挙げられます。

 

このように特定の産地と結びつく農林水産物や食品を選ぶ際,消費者はその地理的表示を信頼して購入を決定します。

 

そこで,地理的表示法は,①生産業者の利益と②消費者の信頼の保護を図ることを目的としているのです[12]

 

地理的表示の不正は行政が取り締まり,違反の場合には5年以下の懲役もしくは併科500万円以下の罰金など,罰則もあります[13]

 

 

3,まとめ

 

知的財産権は科学技術や社会経済の発展に伴い,日々目まぐるしい変化を遂げています。他者の知的財産に対する権利を侵害すれば,厳しい処罰を受けるだけでなく,自社の社会的信用をも失いかねません。自社の権利を守りつつ,同時に他者の権利を侵害してしまうことがないよう,適宜専門家に相談するなどして情報をアップデートし,十分注意しましょう。

 

 

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業,事務職員等を経て,現在は英語講師やライター業務等に従事。得意ジャンルは一般法務のほか,男女・夫婦間の問題,英語教育など。英検1級。

[1]  日本弁理士会HP内「知的財産権とは」参照。

[2] このほかにも,回路配置利用権や不正競争防止法上の諸権利などがあります。詳しくは特許庁HP内「知的財産権について」をご参照ください。

[3] 特許法第67条第1項参照。

[4] 特許法第67条第4項参照。

[5] 実用新案法第15条参照。

[6] 美術品などはむしろ著作権法上の保護対象。

[7]  意匠法第21条で従来より延長されました。

[8] 種苗法第33条参照。

[9] 種苗法第67条以下参照。

[10] 文化庁HP内「著作権の発生及び保護期間について」参照。

[11] 農林水産省HP内「地理的表示法とは」参照。

[12] 地理的表示法第1条参照。

[13] 地理的表示法第39条以下参照。