懲戒解雇の進め方/懲戒解雇の基礎知識

懲戒解雇をされると労働者は生活の基盤となる収入源を失うだけでなく将来的に採用の道を狭められたりするなど重大な不利益を受けるため、懲戒解雇が有効とされるには厳しい要件が求められます。本記事では、懲戒解雇の手続の流れをみていきましょう。

 

1.        懲戒解雇とは

懲戒処分は事業主が労働者に対して行う労働関係上の制裁処分で、たとえば戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等がありますが、中でも最も重い処分が懲戒解雇です。

 

懲戒解雇は、労働者が業務上の地位を利用し事業所内での横領や窃盗を行った場合や、職務に関わる重要な資格の詐称等、特に重大な就業規則違反行為があった場合に適用されます。

 

また、殺人や強盗等刑事犯罪を犯し、よって会社全体に悪影響を及ぼした場合[1]や、悪質なセクハラ行為、正当な理由のない長期無断欠勤、他の事業所への勝手な転職等も懲戒解雇に当たる可能性が高いでしょう。

 

懲戒解雇の場合、通常「自己都合退職」となりますので、失業保険の受給制限期間が、通常の当初待機期間(7日間)に加え2か月間もしくは3か月間長くなります[2]

 

なお、従前は3か月間の給付制限期間がありましたが、令和2年10月1日以降は原則2か月間に短縮されました[3]

 

また、懲戒解雇された場合、前職の退職理由が明らかになれば新規で採用されにくくなるなど、再就職の際に大きな不利益をこうむる可能性もあります。

 

懲戒解雇を行う際は適切な手続に基づき、慎重に判断しましょう。

 

2.        懲戒解雇の条件

(1) 懲戒解雇事由と就業規則

懲戒解雇が有効と認められるためには、就業規則に根拠となる規定が明記されていること[4]、および、その規則が労働者に周知されていること[5]が必要です[6]

 

なお、仮に懲戒事由となる事実発生後にこれを急いで就業規則に規定したとしても遡ってこれを処分することはできません(処分不遡及の原則)。

 

「何をすれば懲戒処分になるかを労働者自身が知っていたにも関わらず、就業規則の根拠規定に違反した」という状況が処罰に値するのであって、当該事実発生当時には就業規則違反でなかった事由に基づき処分をするのは明らかに不当だからです。

 

(2) 処分の合理性と相当性

また、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、事業主の権利濫用として、当該懲戒解雇処分は無効となります[7]

 

すなわち、懲戒解雇事由に該当するとされた行為の悪質性や態様、行為者の勤務歴、社内での立場、結果として会社に与えた損害の質や大きさ等を総合的に考慮して、処分とのバランスがあまりにも悪い場合は不当解雇として無効とされる可能性が高いでしょう。

 

また、同じ懲戒事由に該当したのに、ある者は懲戒解雇され他の者は処罰なし、などのような明らかに不平等な取り扱いや、一度懲戒処分を受けたのにさらにその者を同じ事由に基づき懲戒解雇処分することも、相当とはいえません。あくまでも社会通念に照らし相当かつ公平な処分を心がけましょう。

 

(3) 手続の適正

懲戒解雇手続が適正でなければ、やはりその解雇処分は無効となります。

 

詳しくは後述しますが、事実関係の十分な調査と、本人に弁明の機会が与えられていること、就業規則で懲罰委員会設置を定めている場合にはきちんとその適正手続を踏んでいることなどが重要なポイントになります。

 

3.        懲戒解雇の手順

以上を踏まえ、具体的な懲戒解雇の手順をみてみましょう。

(1) 解雇方針検討と弁明機会の付与

① 事実確認と方針の決定

懲戒解雇事由が発生した場合、入念に事実確認をしてから解雇方針の検討をしましょう。

 

具体的には、まず、就業規則に照らして懲罰委員会等が設けられる必要があれば速やかにこれを設置しましょう。委員会等設置の必要がない場合でも、必ず複数人で事実確認に当たります。

 

その場合、関係者への事情聴取や証拠収集、本人へ弁明の機会を付与し、必ず毎回確認記録を取ってください。

 

その後、懲戒解雇に踏み切る場合には、解雇日の決定、金銭的支払いの有無及びその金額の決定等を行います。

 

② 弁明の機会は設けたほうが良い

従前の裁判例では、就業規則で弁明の機会を付与することが規定されている場合はもちろん、そうでない場合でも、本人に弁明の機会またはその代替手続を付与せずいきなり懲戒解雇に踏み切った場合、その懲戒解雇は無効と判断される傾向にあるといえます[8]

 

したがって、実務上、弁明の機会を設けたり、それに代わる手続きを行っておいたほうが良いでしょう。

 

(2) 解雇通知書の作成

解雇通知書には以下の各事項を記載しておくとよいでしょう。

 

① 使用者の名称(代表者氏名、およびその署名または押印等を含む)

② 書面作成日

③ 当該従業員の氏名

④ 懲戒解雇の日付

⑤ 懲戒解雇の理由となった行為

⑥ 該当する就業規則の条項

 

(3) 解雇予告(当該従業員への解雇通知)

通常、使用者が労働者を解雇するには原則として「少なくとも30日以上前の解雇予告または解雇予告手当の支払い」が必要です[9]

 

この点、一般的に懲戒解雇の場合には、通常の解雇と異なり「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合[10]」として、労働基準監督署長による除外認定を受けやすいため、解雇予告手当も解雇予告もない即日解雇などが認められやすい傾向にあります。

 

しかし、懲戒解雇の場合でも、後日の紛争を回避するため、できれば原則通り30日以上の猶予をもってきちんと内容証明郵便等、到達日時を証明できる書面で解雇予告を通知しておくことをお勧めします。

 

(4) 退職金について

就業規則で退職金の規定がある場合でも「懲戒解雇の場合には退職金を支払わない」と規定する会社は珍しくありません。しかし、そうでなければ規定に沿って退職金を支払う義務がありますので、支払い手続を忘れないようにしてください。

 

(5) 懲戒解雇の発表

再発防止等を目的として懲戒解雇処分の事実を社内で公表する場合がありますが、これは関係者のプライバシー権侵害や名誉毀損に当たる可能性がありますので、注意してください。

解雇事実を公表する場合でも、再発防止等目的を達成するのに必要かつ最小限の範囲で、かつ、解雇された者を容易に推測、特定できるような表現方法は避け、公表する範囲も原則として社内に留めておくのが良いでしょう。

 

また、懲戒解雇の場合でも、通常の解雇や退職の場合同様、社会保険や雇用保険の被保険者資格喪失届や離職証明書等をハローワークへ提出する手続や税務関連の手続等が必要ですので、これらも忘れないようにしてください。

 

4.        まとめ

以上のように、懲戒解雇された事実は当該労働者に一生ついて回るものであり、通常の解雇以上に労働者に不利益をもたらすため、その要件はとても厳しいものです。そのため、懲戒解雇をする場合には、後日の紛争を避けるためにも十分な検討と慎重な手続を踏むように心がけましょう。

 

田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在はフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育等。英検1級。

[1] 小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日)など

[2] 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「 失業等給付を受給される皆様へ 」 ハローワークインターネットサービス「ハローワークインターネットサービス よくあるご質問(雇用保険について) Q5」参照

[3] ただしこの短縮は①5年間のうち2回までに制限されており、また②「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」により退職した者はやはり3か月間の給付制限期間を受ける。

[4] 労働基準法第89条3号

[5] フジ興産事件(最判平成15年10月10日)ほか

[6] 労働基準法第106条労働契約法第7条

[7] 労働契約法第15条および第16条

[8] 日本通信事件(東京地判平成24年11月30日)、千代田学園事件(東京高判平成16年6月16日)ほか

[9] 労働基準法第20条

[10] 労働基準法第20条第1項但書