「働き方改革」という言葉が使われ始めて久しいですが、「実は、よく知らない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、「会社員として働いていたときは気にしていなかったけれど、経営者という立場になり考えざるを得なくなった」というケースもあることでしょう。
そこで本記事では、「働き方改革」とはどのようなもので、なぜ必要とされているのか、改めて整理します。働き方改革に取り組む上でのポイントもご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
1.働き方改革とは
厚生労働省の「働き方改革 特設サイト」によれば、働き方改革とは、“働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革”とあります。
現代の日本は、少子高齢化の加速によって“働き手世代”が年々減っています。加えて、働く人たちは「育児、介護と仕事を両立させたい」など、働き方に対してさまざまなニーズを持っています。
「労働力の減少」や「労働者のニーズの多様化」といった課題に対応するには、年齢に関わらず働く意欲のある人が活躍できたり、働く人それぞれのライフスタイルなどに合った働き方が選べたりできる社会が必要です。
そのような社会を実現するため、これまでの労働環境の見直しや労働に関する法律の改正といった“改革”を行い、「一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする」というのが働き方改革の目指すところです。
特に、国内の約7割の雇用を担う中小企業、小規模事業者には、働き方改革の着実な実施が求められています。
企業にとっても、人手不足が深刻化する中で、いかに人材を確保していくかは喫緊の課題です。雇用する人材の間口を広げる、多様な働き方を取り入れるなど、働き方改革によって社員一人ひとりの状況に合わせた働きやすい環境を作ることは、人手不足解消だけでなく、優秀な人材を雇用して業績を向上させていくためにも必要不可欠といえるでしょう。
働き方改革は、「一億総活躍社会」実現に向けた重要な政策とされています。政府は2019年4月に「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」の順次施行をスタートし、法改正などを進めています。
<参考>厚生労働省 働き方改革特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/
2.なぜ働き方改革が必要なのか
なぜ、これほどまでに働き方改革が求められているのか。その理由には、前述したように、日本の抱えるさまざまな労働課題が起因しています。主な3つの理由をピックアップしてご紹介します。
(1) 労働人口を増やすため
日本は、人口に占める高齢者の割合が年々増える一方、若年者は年々減少する「少子高齢化」が加速しています。特に、労働力の中心となる15〜64歳の「生産年齢人口」(※)は、1995年をピークに減り続けている深刻な状況です。
(※)国内の生産活動をメインで支える人口層のこと。経済協力開発機構(OECD)において、15〜64歳と定義しています。
<引用元>人口推計(2019年(令和元年)10月1日現在)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/index.html
この状況に何も対応しなければ、日本全体の生産力低下は避けられず、今後の経済成長にも影響を及ぼします。そこで、労働人口を増やすべく、これまでの労働環境を見直そうと始まったのが「働き方改革」です。「労働人口の減少」こそが、政府が改革を推進する大きなきっかけとなった課題なのです。
生産年齢人口が減り続ける中、働き手を増やしていくには、高齢者や女性など年齢や性別に関わらず、働きたいすべての人が活躍できる環境を整えることが重要です。
そこを目指した取り組みのひとつに、「高齢者雇用促進」があります。
内閣府の調査によると、多くの高齢者は年齢を重ねても「働きたいうちはいつまでも」働きたいと考えています。
<引用元>内閣府「平成29年版高齢社会白書(全体版)」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_4.html
しかし、働きたい希望はあっても、定年を迎えればリタイアしなければならないなど、実際働ける機会や場はあまり多くありません。そこで、働く意欲がある高齢者を新たな働き手として確保すべく、65歳を超える高齢者を雇用する事業主に助成金を支給する制度など、高齢者の雇用を促進する取り組みが実施されています。
そのほかにも、
・定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
・65歳までの継続雇用制度を導入している事業主
に対し、「70歳までの定年引き上げ」や「定年制の廃止」など70歳までの就業確保を努力義務とした「改正高年齢者雇用安定法」が、令和3年4月1日に施行されました。
(2) 長時間労働を解消するため
日本企業の労働時間の長さは、世界的にもトップレベルといわれています。かつては、長時間働く社員ほど“優秀”と評価され、残業が多い、休みが取りづらいのは当たり前という会社も少なくありませんでした。
しかし、こうした「働きすぎ」は、過労死や心身の疾患のリスクを高めるなど、労働者の健康に深刻な影響を与えます。日本政府は2013年、長時間労働や過労死問題について国連の社会権規約委員会から防止対策の強化を求められました。
健康への影響だけでなく、長時間労働が常態化している職場では、育児や介護などとの両立、プライベートの時間を取ることも難しくなります。仕事と生活のバランスが取れず、「本当は働きたいのに働き続けることができない」という人も出てくるでしょう。長時間労働は、深刻な人手不足にも拍車をかけてしまうのです。
労働者の健康を守ることはもちろん、労働参加率(※)を上げるためにも、長時間労働を是正する必要があります。
(※)生産年齢人口に占める労働力人口(働く意思を表明している人)の割合
そうしたことを受け、政府は「時間外労働の上限規制の導入」を実施しました。
時間外労働は、これまで上限時間は設けられていたものの、法的な拘束力はありませんでした。それが法改正により、上限を超えた場合は企業に罰則が科せられるなど厳格化しました。
(3) 多様な働き方に対応するため
前述したように、現代の労働者のニーズは以下のように多様化しています。
・育児や介護と仕事を両立させたい
・本業だけでなく、複数の仕事をしたい
・時間や場所に縛られず、自由に働きたい
また新型コロナウイルス感染拡大の影響により、在宅で働きたいというニーズも増えていることでしょう。
労働参加率を上げるためには、こうしたニーズのある人でもライフ・ワーク・バランス(仕事と生活のバランスがとれている状態)を保ちながら働き続けられる、働き方の選択肢を用意することが必要です。
選択肢としては、フレックスタイム制度、時短勤務、テレワークなどがあります。本業とは別に副業・兼業をしながら働くという選択もあるでしょう。2018年には、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が策定され、副業・兼業を認める企業も増えつつあります。
また政府は、「正社員、非正規社員の格差是正」にも注力しています。
働きたい人の中には、ニーズやライフスタイルなどにより非正規社員の働き方を選ばざるを得ない人も多くいます。しかし、正社員とアルバイトや派遣といった非正規社員の間にある賃金や待遇の格差は長らく問題視されてきました。
「同じ仕事をしているのに給与が低い」など不合理な処遇の差は、せっかく働きたいと思っている人の「働きたい」「頑張ろう」という意欲をつぶしてしまう可能性もあります。そこで政府は、後述する「同一労働同一賃金」のガイドラインの整備など、どのような働き方を選んでも平等な処遇を受けられるしくみ作りを進めています。
3.働き方改革関連法のポイント
企業が働き方改革に取り組む際、必ず押さえておきたいのは「働き方改革関連法」です。労働基準法など労働に関する8つの法律が改正され、企業はそれらに沿って就業規則など見直す必要があります。特に重要な3つのポイントをご紹介します。
- 年次有給休暇の時季指定
年次有給休暇は、
・半年間継続して雇われている
・全労働日の8割以上を出勤している
という2つの要件を満たした労働者であれば取得する権利があります。
労働基準法の改正により、労働者が年次有給休暇を確実に取得できるよう「使用者による時季指定」が定められました。
使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に対し、年次有給休暇の日数のうち年5日間は、使用者が時季を指定して取得させることが必要です。
以下の点に注意しましょう。
・使用者は取得時季について労働者の意見を聞き、その意見を尊重するよう努める
・使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する
・年次有給休暇の付与日から1年以内の5日間を取得時季とする
<引用元>厚生労働省 年次有給休暇の時季指定義務
https://www.mhlw.go.jp/content/000350327.pdf
なお、「労働者自らの請求」や、労使協定で定めた「計画年休」で取得した年次有給休暇は「5日間」から控除できます。それらの方法ですでに年次有給休暇を取得済みの労働者については、使用者による時季指定は不要です。
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時間外労働の上限制限
これまで行政指導のみで、法律の縛りがなかった残業時間ですが、法改正により原則「月45時間・年360時間」という上限時間が定められました。また「臨時的な特別の事情がある」「労使が合意している」という場合であっても、
・年720時間以内
・2〜6カ月の平均がすべて月80時間以内
・月100時間未満(休日労働も含む)
の上限を超えた残業はできません。
また、「月45時間を超えられるのは年間6カ月まで」という点にも注意しましょう。
<引用元>厚生労働省 働き方改革 特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/overtime.html#point
もし違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される恐れがあります。
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同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」とは、同一の企業や団体において正社員と非正規雇用労働者との間の、基本給や賞与といったあらゆる不合理な待遇差を禁止するものです。
労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の改正により、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者について、以下の3つのことが整備されました。
①不合理な待遇差の禁止
同一企業内の正社員と非正規社員の間で、以下のようにあらゆる待遇差が禁止されます。
・不合理な待遇差の禁止(均衡待遇規定)
事業主は、職務内容や職務内容と配置の変更の範囲、その他の事情の違いに応じて、待遇を決定する必要があります。
・差別的取り扱いの禁止(均等待遇規定)
事業主は、職務内容や職務内容と配置の変更の範囲が同じ場合、待遇について同じ取り扱いをする必要があります。
派遣社員については、以下のいずれかの確保が義務付けられています。
・派遣先の労働者との均等待遇、均衡待遇
・一定の要件(同種業務の一般労働者の平均的賃金と同等以上の賃金など)を満たす労使協定による待遇
なお、どのような待遇差が不合理に当たるかどうかは、「同一労働同一賃金のガイドライン」に例示されています。
<引用元>厚生労働省 同一労働同一賃金ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
②労働者への待遇に関する説明義務の強化
非正規社員は、「正社員との待遇差の内容や理由」や「待遇決定に際しての考慮事項」といった自身の待遇について事業主に説明を求めることが可能です。事業主は、その求めに対し説明する義務があります。
③裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争を裁判せずに解決する手続きのことです。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」の説明についても、行政ADRの対象となりました。
<参考> 厚生労働省 働き方改革特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/
4.まとめ
働き方改革についてご紹介しました。今後も、社会情勢や時代の変化などにより、さらなる法改正や方針変更の可能性があります。働き方改革に取り組むときは、厚生労働省の各ガイドラインなど、最新の情報をこまめにチェックすることも忘れないようにしましょう。
金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。