顧問の活かし方/どのような役割を担ってもらうか

顧問とは、簡単にいえば「専門知識を用いて経営に関し適切な助言をする者」です。たとえば「顧問弁護士」や「顧問税理士」などはよく耳にするのではないでしょうか。ただ、専門家のアドバイスがほしいとき、顧問契約を結ぶべきかどうか、また、どのような相手とどのような顧問契約を結べば良いのかなど、いろいろと迷うことも多いでしょう。そこで今回は簡単に顧問について説明させていただきます。

 

1.顧問とは

 

顧問は、前述の通り、会社経営においてその専門知識や経験をもとにアドバイスをする者を指します。取締役と異なり、会社経営において重要な意思決定を行うわけではありません。

 

また、取締役や監査役などと異なり、会社法などに法律上の規定があるわけでもありません。

 

ですから、顧問契約を締結するもしないも会社の自由ですし、顧問料や契約期間、解約に関する規定やオプションなどは、それぞれの契約により多種多様です。

 

たとえば弁護士や税理士、司法書士や社会保険労務士など士業の専門分野、あるいは、ITのインフラ整備やそのセキュリティ分野、また、各種技術面をサポートする技術アドバイザーや、経営コンサルタントなども「顧問」の具体例として挙げられます。

 

また、これらとは別に、「顧問」と名が付いていても実質は定年退職後の受け皿としての「相談役」に過ぎないという場合もあります。

 

それでは以下、顧問の具対的な役割について簡単にみてみましょう。

 

2.顧問の役割

 

(1) 顧問の役割と業務内容

顧問には各分野においてその専門的な知識や知見に基づき適切な助言を提供する役割があります。

 

たとえば顧問弁護士の場合をみてみましょう。顧問契約の内容にもよりますが、たとえば契約書の作成や内容の法的チェック、社内倫理規定の策定やコンプライアンス全般についての助言、社内外で発生した法律上のトラブルに関する初期対応の相談など、法的分野に関するあらゆる実務に対応しているのが一般的です。もちろん契約によっては別途費用がかかるものもありますので、契約締結前に確認が必要です。

 

また、顧問税理士も、申告書の作成をはじめ節税対策や会社経営に関連するあらゆる税務相談に対応していることが多いのですが、こちらも個別の顧問契約により具体的な適用範囲は異なります。

 

そのほか、経営コンサルタントや中小企業診断士などをはじめとした経営上の専門家に対しては、経営における各種課題の発見と対応策、組織改革や新規事業の立ち上げなどに関する相談ができます。

 

また、ITコンサルタントに対し社内のIT事業インフラの構築や問題対応を相談したり、製造業における熟練の技術者から技術面でのノウハウを提供してもらうなど、さまざまな分野で顧問の役割が広がりをみせています。

 

顧問の設置を検討するうえで重要なのは、自分たちのニーズがどこにあるのかを見極め、そのニーズに適切に対応できる顧問先を見つけることでしょう。

 

 

(2) 相談役との違い

 

以上のような顧問は主に「外部顧問」などとよばれ、通常は会社から独立した立場で契約を締結します。

 

これに対し、定年退職後の元会社役員などが就任することの多いいわゆる「相談役」としての顧問は「内部顧問」と分類されることが多く、やや性質が異なります。

 

もちろん、相談役でも、長年社内で培ってきたノウハウや人脈、技術力などを専門的に活用してアドバイスするという側面を持ち合わせていることもあります。

 

ですが、退任役員の受け皿としての名誉職的なポストである場合は、専門性がそれほど高くないばかりか、その業務内容に対し不適切に高額な報酬が支払われていることも少なくありません。

 

 

3.顧問の待遇

 

顧問を設置した場合、その待遇はどのようにするべきでしょうか。

そもそも顧問に関しては特に法的規定がないため、その待遇についても特定の決まりはありません。

顧問契約書の雛形があれば基本的にはそれに従うことになりますが、交渉の余地も残されています。以下、顧問の待遇について簡単に説明します。

 

(1) 常勤と非常勤

 

顧問契約には、常勤と非常勤、両方のケースが存在します。

 

常勤の場合、通常の従業員と同様、基本的に毎日会社に出勤し一定時間、社内で勤務します。定年退職後の社内相談役的な地位の場合は、こちらの方式が採用されやすい傾向にあります。

 

これに対して、非常勤の場合は、アドバイスが必要な時に限り活躍することになります。

 

たとえば顧問弁護士の場合であれば、法務部などで対処しきれない法的トラブルが発生した場合や、契約内容の確認等、特に必要がある場合に限り、担当部署の社員が当該顧問先法律事務所を訪問することになります。したがって、顧問弁護士が会社に常勤するわけではありません。

 

また、常勤の場合は一般的に会社と雇用契約を締結している場合も多く、その場合には社会保険や雇用保険などの適用がありますが、非常勤の場合には単なる業務委託契約や委任契約であることが多く、その場合、社会保険等の適用はありません。

 

もちろん、それぞれ個別の契約で待遇を自由に定めることができるためこれらはあくまでも一般論です。

 

(2) 報酬

 

一般的に顧問の専門性が高まれば高まるほどその報酬相場も上昇しやすい傾向にあります。 特に弁護士や会計士などはその傾向が強く、また、これらをはじめ、経営コンサルタント、税理士、社労士など、それぞれの専門職ごとに異なる相場観がある点に留意しましょう。

 

もちろん、金額の定めは自由です。また、顧問料が高額だからといって必ずしも上質なサービスを受けられるとは限りません。逆に、顧問料が安くても会社のニーズに適したサービスを十分に提供できる顧問先もあるでしょう。

 

各分野の顧問先を総合的に紹介しているサイトや、弁護士や税理士など業界ごとの紹介サイトも存在します。

 

実際に契約するにあたっては、いくつか候補となる顧問先を打診し見積もりを得るなどして比較してみると良いでしょう。

 

その際、①顧問先のスキルや実績が自社のニーズに合致するかどうか、②スムーズな連絡連携の有無、③報酬額の適正性、④オプションなどに関する情報提供の有無などを総合的に考慮して顧問先を選ぶことをお勧めします。

 

 

 

4.顧問のメリット・デメリット

 

次に、顧問を置く場合のメリットとデメリットについてみていきましょう。

 

(1) 顧問のメリット

 

① 困ったときすぐに対応してもらえる

 

たとえば、何か法律上の問題が発生した場合にその都度新しく弁護士を探すのは大変です。

 

この点、社内でパワハラ、セクハラ等の法的問題が発生したり、社員が社内外で交通事故や犯罪に巻き込まれた場合にも、顧問弁護士がいれば気楽にすぐ相談することができ、適切な初期対応が可能となり、問題の重大化を防ぐことができます。

 

同様に、相談役的立場を有する内部顧問に対しても、経営上の問題が発生した時、内情をよく知る存在にいち早く相談できるメリットがあります。

 

 

② 問題発生を未然に防ぎやすい

 

顧問弁護士の例でいえば、セクハラやパワハラ問題などに関する社内セミナーの実施を始めとする社員教育や、それらの問題をマネジメントするのに必要な内部組織の構築など、日頃から相談を重ねることにより、問題発生自体を未然に防ぐことも可能になります。

 

同様に、税務処理上どの科目に属する事項なのか、どのような会計処理をするべきかなど判断に迷った際、顧問税理士などのプロフェッショナルにすぐに相談できれば、あとで申告漏れの問題や税務処理のミスなどが発生しないよう対策ができるでしょう。

 

③ 人件費を抑えられる

 

法律のプロやITエンジニア等、スキルや専門性の高い人材を自社で雇用すると、高額な人件費を支出しなければなりません。

 

これに対し、顧問であれば各専門分野の相場にもよりますが月額数千円から十数万円程度の顧問料で済むことが多いため、結果的に人件費を節約できます。

 

また、人手不足の時期など、そもそも優秀な人材を雇用により独占的に確保するのは難しいですが、顧問であれば必要なときだけ相談に応じてもらえばいいのでその人材を独占する必要はなく、顧問の側も顧客を複数持つことができるため、比較的人材を確保しやすいといえます。

 

④ 内部事情の精通により問題解決に結びつきやすい

 

個別の事案が発生するごとにいちいち相談料を払って相談することももちろん可能ではありますが、一般的に長期の契約関係を続けることで、会社の内情に精通した信頼できる弁護士や税理士等に気軽に相談、依頼できるというのはかなりのメリットではないでしょうか。

 

同様に、いわゆる相談役的地位を有する内部顧問の場合も、当然社内の事情に精通しているわけですから、相談がスムーズに進められるというメリットがあります。

 

以上に挙げたようなメリットのほか、例えば顧問弁護士を擁している事は自社がコンプライアンスを重視していることのアピールになり、結果的に株主や債権者に対して自社の信用性を高める効果も期待できます。

 

 

(2) 顧問のデメリット

次に、顧問を設置することによるデメリットを見てみましょう。

 

① 簡単に解約しにくい

 

基本的に顧問契約は年単位など長期の契約を予定しているため、プロジェクトごとに終了する業務委託契約などとは異なり 簡単に解約できないというデメリットがあります。

 

 

② 無駄な支出となる場合がある

 

たとえば「いつか必要になるかも」という程度の動機から顧問を置くと、結果的に年間の顧問料を払っているにもかかわらず1度も利用しないという、もったいない事態になることもあります。

 

もちろん、もしもに備える保険という感覚でそのような顧問契約を締結することも1つの方法ですし、節税対策も兼ねて支払うという場合もあるでしょう。

 

しかし、コストを大幅にカットしなければならない特段の事情がある場合には、このような方法はあまりお勧めできません。

 

また、相談役的な顧問の場合で、実際にはほとんど業務を行っていないにもかかわらず不適切に高額な報酬を支払っているようなケースでは、現役の社員に対し不満をもたらし、結果勤労意欲を下げてしまいかねません。

 

さらにこのような場合、結果的に株主や債権者からも不信感を持たれてしまいます。

 

③ 本来の顧問の役割を果たせないことがある

 

主に相談役的な顧問は元役員であることが多く、現役の社員が相談した場合、顧問の助言がたとえ不適切と感じたとしても、元上司からの意見には逆らいにくい面があります。

 

結果、たとえそれが助言を超えた独断的な意見であっても従わざるを得ないなど、本来の顧問の役割を果たせないことがあります。

 

 

5.まとめ

 

以上より、相談役など、単なる名誉職としての顧問はむしろ会社にとって有害となり得ることがあります。これに対し、目的が明確で、その目的を達成するのに適切な範囲で専門的な顧問を設置することはむしろ有用であるといえるでしょう。

 

 

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は英語講師、ライター業務等に従事。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題、英語教育など。英検1級。