特定求職者雇用開発助成金は、高齢者や障害者等、就職が困難な者を一定の条件下で労働者として雇用することで政府から事業主に支給されるものです。支給要件は複雑詳細なうえ、申請の期限は厳格に定められているので、該当可能性のある雇用を予定している場合はあらかじめ要件をよく確認しておく必要があります。本記事では、そのうち4つのコースにつき要件や手続き等を簡単に解説していきます。
1.特定求職者雇用開発助成金とは
特定求職者雇用開発助成金とは、高齢者や障害者等の就職が特に困難な者を、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、継続して雇用する労働者等として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。
この制度は、雇用保険法第62条 [1]以下に規定された政府が行う雇用安定事業の一環であり、高年齢者や障害者等の就職が特に困難な者の雇用機会の増大および雇用の安定を図ることを目的としています。
参考; 特定就職困難者コース 支給要領( 厚生労働省Webサイト 特定求職者雇用開発助成金「特定就職困難者コース」 内リンク先)
2.特定求職者雇用開発助成金のコース
特定求職者雇用開発助成金には、現時点で以下の表中①~⑦の全7コース[2]が存在しています。
参考; 厚生労働省 事業主のための雇用関係助成金 4. 雇入れ関係の助成金
参考; 厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金」(特定就職困難者コース) 内リンク先「雇用の安定のために」詳細版(抜粋)
また、これら全コースのほか各雇用関係助成金に共通の要件も規定されています。
参考;厚生労働省 各雇用関係助成金に共通の要件等
[2] 以前は⑧まで掲載されていましたが、現在は⑧の案内は原則として終了しています。
※1⑧ 三年以内既卒者等採用定着コース[1]
同コースは平成31年3月31日までに募集を行い、平成31年4月30日までに対象者を雇入れた事業主が対象なので、原則として令和3年1月現在、新規の申請案内はすでに終了しています。ただ、中小企業については「雇入れ日より3年定着後」まで毎年支給が可能なため、まだ申請可能なケースも考えられますので、詳しくは管轄の地方労働局やハローワークにお問い合わせください。
以下、これらのコースのうち(1) 特定就職困難者コース(2) 生涯現役コース(3) 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース(4)生活保護受給者等雇用開発コースの4つにつき解説していきます。
(1) 特定就職困難者コース
高年齢者、障害者、母子家庭の母や中国残留邦人等永住帰国者等、就職が特に困難な者を労働者等として継続雇用する事業主に対して助成するもので、就職困難者の雇用機会増大および雇用の安定を図ることを目的としています。
① 対象労働者
助成の対象となる労働者は、ア)重度障害者等以外の者(60歳以上65歳未満の者、母子家庭の母等)と、イ)重度障害者等(重度障害者のほか、身体障害者や知的障害者のうち45歳以上の者や、精神障害者等)のどちらかに該当する者であることが必要です。
なお、これらの要件はあくまでも雇入れ日を基準としているため、たとえば雇入れ日時点で母子家庭だった労働者が、その後に再婚し母子家庭ではなくなった場合でも、一定の範囲で助成金を受給できます。詳しくは管轄労働局やハローワークにお問い合わせください。
② 雇入れの条件
助成金を受けるには、①の対象労働者を ア)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、イ)雇用保険の一般保険者として雇い入れ、継続して雇用することが雇入れ時点で確実であると認められることが必要です。
この点、労働者は雇入れ日時点で雇用保険の被保険者となっていることが必要で、この要件を満たしていればアルバイトやパートでも対象になることが可能です。
③ 支給期間と支給金額
本助成金は、対象労働者の類型と企業規模に応じ、対象労働者の雇入れに係る日から起算した助成対象期間を6か月単位で区分した支給対象期ごとに支払われます。
たとえば「短時間労働者」に該当する「障害者」の場合、助成対象期間は2年間(中小企業以外の企業は1年間)で、1人あたり80万円(中小企業以外なら30万円)となり、「20万円×4期」(中小企業以外の場合は15万円×2期)という形で半年ごとに支給されます。
ここでの「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者を指し、また、「中小企業」とは、たとえば小売業・飲食店であれば「資本金もしくは出資の総額が5千万以下または常時雇用する労働者が50人以下」である等、業種別にそれぞれ要件が定められています。
なお、支給対象期ごとの支給額は、対象労働者に対して支払われた賃金が上限となることに注意しましょう。
以上、詳しくは厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金「特定就職困難者コース」 および同ページリンク先 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 制度概要パンフレット(特定就職困難者コースのご案内) をご確認ください。
④ 受給手続と受給申請の流れ
本助成金を受給しようとする事業主は、支給対象期末日の翌日から起算して2か月以内の「支給申請期間」に支給申請書に必要な書類を添えて管轄の労働局かハローワークへ申請します(下図参照)。基本的に以下、原則として他のコースも同様の流れになります。
[1] 参考;特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)
⑤ その他の要件
受給できる対象事業主となるには、雇用保険の適用事業主であることや、対象労働者の雇入れ日の前後6か月間(基準期間)に事業主都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと、対象労働者の出勤状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等)を整備・保管し、管轄労働局長の求めに応じ提出したり、管轄労働局が行う実地調査に協力する等、助成金支給または不支給の決定に係る審査に協力する事業主であること等、詳細な要件が定められています。
また、他の助成金の支給を受けている場合には本助成金支給対象とならない場合がありますし、ハローワークの紹介以前に雇用の予約があった労働者を雇い入れる場合は本助成の対象とはなりません。
助成金支給対象期間の途中に対象労働者が離職した場合や、当該雇入れの日の前日から過去3年間に当該事業所に就労等していた者や事業所の代表者等の近親者等を雇い入れる場合も対象から除外されます。
このほかにも詳細な要件や注意事項が規定されているうえ、各地方労務局等により取扱いが異なる場合もありますので、詳細は前出の 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 制度概要パンフレット(特定就職困難者コースのご案内) をご確認いただき、ご不明な点は管轄の労働局またはハローワークへお問い合わせください。
(2) 生涯現役コース
満年齢が65歳以上の離職者を雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れる事業主に対して助成金を支給するもので、高年齢者がその経験等を活かして働き、引き続き社会で活躍することへの支援を目的とした制度です。
① 対象労働者
雇入れ日現在の満年齢が65歳以上で、紹介日に雇用保険の被保険者(1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者等、失業等の状態にない場合を含む)でない人が対象です。
② 支給期間と支給金額
たとえば対象者の1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の「短時間労働者」の場合は50万円(中小企業以外の企業の場合は40万円)で、25万円× 2期(中小企業以外の場合20万円× 2期)といった形で支給されます。
「中小企業」該当の要件も含め詳細は厚生労働省Webサイト 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース) および同制度概要パンフレット 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)のご案内 をご確認ください。
③ その他の受給要件
受給可能な事業主に該当するには、特定就職困難者コース同様、雇用保険の適用事業主であることや、基準期間に事業主都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと、管轄労働局による審査に協力的であること等のほか、詳細な要件が規定されています。こちらも 厚生労働省ホームページ 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)のご案内 および同制度概要パンフレット 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)のご案内を確認し、不明な点は管轄労働局やハローワークに問い合わせましょう。
(3) 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
障害者手帳を持たない発達障害や難病のある者を雇い入れる事業主に対し助成し、発達障害や難病者の雇用と職場定着を促進するための制度です。
① 対象労働者
対象労働者は、障害者手帳を所持しておらず、発達障害又は難病のある者で、雇入れ日時点で満年齢が65歳未満の者です。なお、対象となる各障害・疾患一覧は厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) リンク先 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースのご案内に記載されています。
助成を受けるには、これらの対象労働者を、ハローワーク、地方運輸局、特定地方公共団体、職業紹介事業者等の紹介により一般被保険者として雇用し、かつ、継続的に雇用することが確実であると認められる必要があります。
② 助成金額
たとえば事業主が中小企業で短時間労働者に該当する場合、助成対象期間は2年で、支給総額80万円が20万円ずつ第1期~第4期まで4回の支給対象期に分けて支給されます。詳細は厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) をご参照ください。
③ その他の受給要件
受給しうる事業主となるには、雇用保険適用事業主であること、基準期間に事業主都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと、対象労働者の出勤状況や賃金支払い状況等を明らかにする書類を整備・保管していること等、他のコース同様、多数の要件があります。詳細は厚生労働省Webサイトや、管轄労働局およびハローワーク等でご確認ください。
参考; 厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) リンク先 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースのご案内
(4) 生活保護受給者等雇用開発コース
地方公共団体からハローワークに対し就労支援の要請がなされた生活保護受給者等を、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主を助成するもので、生活保護受給者等の雇用の促進を目的としています。
事業主には雇い入れた者に対する配慮事項等について報告する義務があり、また、雇入れから約6か月後にハローワーク職員等が職場訪問をしますので、その調査にも協力が必要です。
① 対象労働者
雇入れ日時点において満65歳未満であり、かつ、生活保護受給者や生活困窮者であること、ハローワークに就労支援の要請がなされた時点において失業状態にあること等が要件です。詳しくは地方労働局やハローワークに確認しましょう。
② 雇入れの条件
対象労働者をハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇用保険一般被保険者として雇い入れることや、継続雇用が確実であること等が必要です。
このほか、他のコース同様に詳細な要件がありますので、詳細は厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(生活保護受給者等雇用開発コース)記載の制度概要パンフレット 特定求職者雇用開発助成金のご案内(生活保護受給者等雇用開発コース) をご覧ください。
3.まとめ
以上各助成金に関する支給申請書等のフォーマットについては、各コースのWebサイトに掲載されています。
なお、平成28年4月1日から「トライアル雇用奨励金」と「特定求職者雇用開発助成金」の制度を併用できるようになりました[1]。このように併用可能な助成金もありますが、「雇用調整助成金」のように、本助成金とは原則として併用できないものもあります。
また、「新型コロナウイルス感染症の影響により実労働時間が減少した場合」の支給額を減額しない「特例」が実施されていますが、こちらは令和3年1月4日から3月31日までの間に特定求職者雇用開発助成金の申請をする必要があります(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのWebサイト 特定求職者雇用開発助成金をご利用の事業主の方へ 「支給額を減額しない特例を実施します」 )。
このように、要件等の詳細は事情に応じ随時変更されるうえ、各地方労働局等により取扱いが異なる場合もありますので、最新の情報は厚生労働省Webサイトを確認し、管轄の労働局やハローワークへお問い合わせください。
弁護士業、事務職員等を経て、現在はフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育等。英検1級。
[1] 参考;厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークWebサイト「平成28年4月1日から「特定求職者雇用開発助成金」の制度を変更します