中小企業の経営者の中には、「会計監査が必要なのは大会社だけだからうちは関係ない」と思う人もいるかもしれません。
しかし、会計監査が法律上義務付けられていない会社でも、たとえば銀行から提出を求められた決算書類(財務諸表)がいい加減な内容であれば、必要な融資を受けられないこともあるでしょう。
そこで、きちんとした決算書類を作り会計に問題がないことを専門家に証明してもらうのが会計監査なのです。
本記事で、会計監査の内容や監査に必要な準備事項などを確認していきましょう。
1、会計監査とは
(1)三様監査
監査には、①監査役監査、②内部監査部門による内部監査、③会計監査人による監査があり、これらをまとめて三様監査と呼びます。
このうち①監査役監査は主に取締役の業務執行が適切かどうか、②内部監査は会社内部で各業務が社内手続に沿って適切になされているかなどを監査します。
今回みていくのは、③第三者である公認会計士や監査法人などの会計監査人が、主に会計に関する適正性を監査する「会計監査」です。
(2)会計監査の意義
会社には、債権者や株主など利害関係人に対し、自分の会社の財務状況を説明する義務(アカウンタビリティー)があります。しかし、全員に対し細かい財務関連書類を精査してもらうことは不可能です。
そこで、会計監査を受け適切な評価を報告することで、そのアカウンタビリティーを果たすことができるのです。
(3)法定監査と任意監査
外部の会計監査人による監査を義務付ける法律には①会社法と②金融商品取引法があります。これらの法律で必ず受けなければならないと定められている会計監査のことを「法定監査」といいます。
そして、法律上義務ではないけれど会社が任意で会計監査人に監査を依頼する場合を「任意監査」といいます。
(4)どのような会社で会計監査が必要なのか。
会社法及び金融商品取引法により会計監査が必要とされる会社は、大きく分けて以下の4つです。
■大会社
資本が5億円以上または負債合計額が200億円以上である会社(会社法第328条、会社法第2条6号)
■監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社(会社法第327条第5項)
■会計監査人を任意で設置した会社(会社法第326条第2項)
■上場会社やその他特定発行者(金融商品取引法第193条の2)
2、会計監査で何をみるのか
会計監査で確認する内容は、監査の主体や対象企業によっても多少異なりますが、一般的には以下のようなものが挙げられます。
(1)経理部門の管理体制
経理部門の会計知識、経験、処理能力の有無の確認。社内の経理承認手続や決裁手続など内部統制システムの有効性について。
(2)会計帳簿、計算書類の作成管理状況
仕訳帳や総勘定元帳などの主要簿をはじめ、補助簿として現金出納帳や退職給付引当金台帳など、必要な各種台帳が適正に作成されているか。貸借対照表と損益計算書、付属明細書が適切に作成されているか。
(3)伝票の確認
各種伝票は、取引記録に基づいて作成責任者が適切に作成しているかどうか。
(4)予算
当初予算書と補正予算書などを、きちんと決められた時期に作成しているか、また、予算が適切な手続により実行されているか。
(5)現金、預金など
現金の帳簿残高と現金残高明細表、預金の帳簿残高と金融機関の残高証明書などの整合性。金庫に簿外の現金や預金通帳、印紙や金券類などが保管されていないか。
(6)売掛金と買掛金
売掛金買掛金の帳簿残高と明細表の整合性。
また、売掛金の回収が停滞している売上先や、入金遅れなど不自然な状態のものはないか。買掛金金額が、毎月の売上金額、他の形状月の仕入金額と比べて妥当か。二重計上されている請求はないか。
(7)棚卸資産
実地棚卸には監査人が実際に立ち会っているか。棚卸資産の帳簿残高と、実地で棚卸した実際の数値との金額に整合性はあるか。預かりとなっている棚卸資産はないか、それがある場合、自社分と区分されているか。
(8)固定資産
有形無形の各固定資産について、毎年償却が実施されているか、またその償却方法や償却率、金額は妥当か。
(9)引当金
賞与引当金、退職給付引当金などの各金額と、関係書類を照合して整合性があるか。また、その計上は社内規定に照らし適正か。
この他にも、監査項目はたくさんありますが、まずはこのような項目がチェックされるという点を押さえておいてください。
3、会計監査への備え
会計監査を受ける前には何をどのように準備する必要があるでしょうか。
(1)資料の整理、準備
決算書をはじめとする会計、財務関係の帳簿など、以下の資料を整理・準備しておきましょう。
・仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿
・貸借対照表と損益計算書、これらの付属明細書
・各種伝票
・当初予算書及び補正予算書
・現金出納帳
・預金出納帳
・預金残高証明書
・売掛金買掛金帳簿、請求書や領収書、各種契約関係書類
・経理規定
・棚卸資産受払台帳
・固定資産台帳
・引当金明細書
このほかにも監査人が現場で確認を要求する書類があるかもしれません。そのために監査が二度手間になると、余計な監査費用を請求されてしまうこともあります。会計監査を受ける前に事前のヒヤリングをして対策をしておきましょう。
(2)会計書類や伝票等の精査、理解
経理担当者が正しく決算書類などを理解していることが大事です。監査資料を精査したうえでその内容を踏まえ、監査の時に何を聞かれそうか、ポイントを絞って整理しておきましょう。
(3)各部署の連携及び業務マニュアルの整備
経理部とその他の部署で連携を取り、必要な書類や手続について日ごろから相互理解を深められるよう業務マニュアルを整えておきましょう。
4、会計監査の活用法
会計監査は一見とても面倒そうですし、当然コストもかかります。他方、以下のようにそれを上回るメリットがあります。
(1)対外的アピール
会計監査人による適正な会計報告を行っていると評価されれば、会社の信用度は上がります。そうすれば、出資や融資を受けやすくなりますし、将来的に上場もしやすくなるのではないでしょうか。
(2)健全な社内業務体制の構築
外部の会計監査人から会計業務上の課題についてアドバイスを受けられることもありますし、同時に健全な企業体制を構築できることはいうまでもありません。
5、まとめ
中小企業においては原則的には法定監査は不要ですが、任意監査であってもこれをうまく利用できれば会社にとってむしろメリットが多いことが分かります。会社のさらなる成長に向け、会計監査を導入するか検討してみることをお勧めします。
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。