補助金は、国や地方公共団体が政策の促進や事業を支援するため事業者に交付するものです。融資や借入金に比べ、補助金や助成金は原則返済が不要ですから、ぜひ取得して活用したいところですよね。でも、補助金の原資は税金ですから、その目的に沿わない使い方をしたり不正に受給したりすると、法律により厳しい処罰を受けます。また、社会的信用を失って事業の継続もままならなくなるかもしれません。そこで、そんな残念な事態にならないよう、「補助金適正化法」とよばれる法律について詳しく解説していきましょう。
1 補助金適正化法とは
補助金適正化法の正式名称は「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律[1]」です。先にも書きましたが、補助金の原資は血税であり、恣意的な運用は許されるべきではありません。そこで補助金の交付や運用を適正にすすめるために同法が1955年に制定され、時代の変遷に応じ何度も改正が重ねられてきました。なお、同法の適用がある「補助金」の範囲は、同法第2条第1項4号及び同法施行令第2条[2]に詳しく規定されていますので、参考にされるとよいでしょう。
2 補助金を活用する際に注意すべきこと
補助金適正化法はその第1条で「補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等にかかる予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ること」をその「目的とする」と示しています(抜粋)。そのため、この目的に反するような違反行為があれば、補助決定を取り消されたり、場合によっては刑事罰も課されるなど、厳しい処分を免れません。
補助金の用途は決まっている
補助金はもらえさえすれば何に使ってもいいのでしょうか?もちろんそんなはずはありません。補助金は個別に必ず使用目的が定められていて[3]、その目的以外に使用してはならないと決められています(補助金適正化法第11条)。ですから、具体的にどのような補助金制度をいつ申請できるのか、その目的は事業内容と合致するかなど、先によく調べてから選ぶことが重要です。その際には、ものづくり補助事業関連サイト[4]や中小企業庁の補助金案内サイト[5]など、各種補助金関連サイトを検討して、そこから自分の事業に合うものを探してみることをお勧めします。
それでは、実際に補助金適正化法の違反をした場合どのような処罰を受けるのでしょうか。
まず、本来の目的や用途を偽るなどして、不正な手段で補助金等の交付を受けたりした場合(補助金の不正受給)には、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金による処罰を受けるとされています(同法第29条)。
そもそもこのような不正受給にあっては、単に受け取った補助金を適正に使えなかった場合以上に悪質です。なぜなら、補助金提供側を騙して補助金を得る点でまさに詐欺行為といえるからです。ですから、一定の要件をみたす場合には詐欺罪等でも刑事罰を受ける可能性があります。最近では、森友学園をめぐり籠池夫妻が補助金の不正受給の罪に問われた事件が記憶に新しいでしょう。
補助金の返還
次に、補助金適正化法第17条によれば、事業者が同法に違反した一定の場合には、補助金の全部または一部を取り消せることになっています。つまり、同法違反があると、補助金の全部または一部が交付されないこともあるのです。
とはいえ、補助金の申請から審査、決定、そして実際の補助金交付までは、通常かなり時間がかかることが多く、その間に状況が変化することも十分ありえます。場合によっては事業内容の変更や中止など、補助事業の遂行が難しくなることもあるでしょう。そのような場合には、すぐに各省各庁の長に報告したりその承認を得るなどしなければなりません(同法第7条)。
そして、補助金の全部または一部を取り消された場合、事業者には、すでに受け取った補助金を返還する義務があります(同法第18条)。ただ、例外的に「やむを得ない事情がある時は」これを免れることもできます(同法第18条第3項)。ですから、補助金申請の際にはできる限り申請内容に沿う事業を進める努力をしたうえで、万が一当初予定していたとおりに事業を進められなくなったとしても、あきらめず、やむを得ない事情があった旨申告してみてください。
なお、この補助金返還義務の回収に関する優先順位はとても高く、返還義務に関する加算金や延滞金は、国税滞納処分と同様の取り扱いで徴収できますし(同法第21条第1項)、その回収権も、国税と地方税に次ぐ高順位に立っています(同条第2項)。その点でも、補助金返還に関しては、簡単にその支払を免れられないよう厳しく取り決められていることが分かるでしょう。
補助金で得た財産の処分
事業者は、補助事業などによって取得したり、またその補助金のおかげで増加したりした特定の財産を勝手に処分してはいけません(補助金適正化法第22条)。どういうことかというと、たとえば補助金の種類や金額によっては、かなり長期にわたって使える建物や巨大な施設などを建設、購入できることもあるでしょう。その場合、一定の期間が経過してその間に事業の目的を達成したり、事業が終了した後もそのままそれらが残存することもあります。かといって、それら補助金により得た建物や施設などの財産を勝手に売却、廃棄したり、担保に入れたりすることは、制度本来の目的に反します。そこで、これらの財産(処分制限財産)を処分するには各省庁の長の承認を得る必要があると決められたのです。
ただ、この規定には一定の条件下で例外が定められています(同法第22条但し書き)。財産処分の制限は、「あくまでも補助金交付の目的に沿う形でのみその財産使用を認めるべき」という観点から定められていると考えられることから、逆に言えば、その目的に沿う形であれば、一定の範囲や条件下ではその処分もある程度許されるはずなのです。
したがって、たとえば、事業遂行に支障をきたさない範囲で一時的に転用するとか、事業目的を遂行するのに必要な機能を維持するため、またはその回復や強化を図るための改造を行うことなどは、いわゆる「勝手な」財産処分には当たらないとして、例外的に認められているのです。
なお、処分制限財産の処分が永遠に認められなければ、事業者としても大変困りますし、それでは怖くて簡単に補助金を受け取ることもできません。そこで、処分制限財産については、個別に処分制限期間が設けられています。たとえば鉄筋コンクリート造りの美術館用の建物、学校用の建物等の処分制限期間は50年です。これら具体的な例外や適用範囲について詳しくは経済産業省の通達[6]に定められているので、これも参考にしてみてください。
3 まとめ
さて、ここまで補助金適正化法について説明してきましたが、補助金の交付を受けるには細かい条件があることや、違反による重い罰則があることなど、内容を知らないと危険であるということがお分かりいただけたでしょうか。これらを踏まえ、お金がもらえるからといって安易に申請することなく、交付の趣旨に沿って正しく補助金を活用するよう心がけてください。
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。
[4] 全国中小企業団体中央会 ものづくり補助事業関連サイト
[6] 経済産業省 補助事業等により取得し、又は効用の増加した財産に関する通達等