個人事業主のための融資/様々な選択肢

起業してビジネスを始めるとなると、まとまった資金が必要になります。「大きな会社じゃないとお金を借りるのは難しそう…」、「起業したばかりでも融資をしてくれる所はあるのだろうか…」そんなふうに思っていませんか? 実は、個人事業主でも、開業したてでも、融資を受ける方法は意外とあるのです。本記事では、個人事業主が融資を受けるためにまずすべきことや、融資を行っているさまざまな機関、融資制度についてなど、わかりやすく解説します。

1.個人事業主が融資を受けるためにすべきこと

事業を立ち上げても、法人化しなければ借り入れできないと思っている方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。個人事業主でも、銀行などから融資を受けることは可能です。

ただし、融資には審査があり、「融資したお金をきちんと返せるかどうか」といったことを判断した上で実行されます。必要書類などは融資を行う機関により異なりますが、どこから融資を受ける場合にも、最低限しておくべき2つのことをご紹介します。

開業届を税務署へ提出する

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は、事業を始めたことを税務署に届け出る書類です。原則として、事業開始後1カ月以内に提出することとなっていますが、提出しなくても特に罰則等はなく、未提出のまま事業を始める方もいます。しかし、融資を受ける際には、ほとんどのケースで開業届の提出が求められます。借り入れの申し込みをする前に、開業届の手続きをしておきましょう。

確定申告を行う

確定申告とは、前年の収入などを税務署に申告し、支払うべき税金を確定させるための手続きです。確定申告書類は、事業の利益や経費などが記載されており、きちんと納税している証にもなるため、融資審査の際、重要な参考資料となります。日頃から正確な経理を行い、毎年忘れずに確定申告と納税を行いましょう。

2.個人事業主のための融資

では、実際に個人事業主が利用できる融資には、どのようなものがあるのでしょうか。よく利用されている4つの機関と、それぞれの主な融資制度をご紹介します。

(1) 日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、日本政府が100%出資する機関です。民間の金融機関では融資を受けにくい小規模企業、個人事業主でも、比較的借り入れしやすい融資制度が豊富にそろっています。新しく事業をスタートする個人事業主向けの融資制度の一例を、ピックアップしました。

新規開業資金

新たに事業を始める人、または事業開始後おおむね7年以内の人を対象に、最高7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資が受けられます。

女性、若者/シニア起業家支援資金

女性または35歳未満か55歳以上の人で、新たに事業を始める人、または事業開始後おおむね7年以内の人を対象に、最高7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資が受けられます。

新創業融資制度

新たに事業を始める人、または事業開始後で税務申告を2期終えていない人を対象に、最高3,000万円(うち運転資金1,500万円)の融資が受けられます。

参考:日本政策金融公庫

(2) 民間金融機関

銀行をはじめ、地方銀行、信用金庫、信用組合など、民間金融機関にはさまざまな種類があります。創業間もない事業者は審査が通りづらいケースもありますが、最近では新規事業者向けの融資制度がある銀行なども出てきています。
そして、個人事業主が民間金融機関を利用する際、必ず知っておきたいのが「保証付融資」です。中小企業や個人事業主の金融円滑化を目的に設立された、「信用保証協会」という公的機関が連帯保証人になり、融資をサポートしてくれます。
「保証付融資」には、一定の保証料がかかりますが、新設事業者でも信用度を高められるというメリットがあります。また、万一返済できない状況に陥った場合には、事業主に代わり信用保証協会が一時的に弁済してくれるしくみもあります。貸し手としては必ず返済されるという前提のもと融資しやすくなりますし、借り手にとっても安心材料となるでしょう。

(3) ノンバンク

ノンバンクとは、銀行以外の金融機関を指します。たとえば、消費者金融会社、信販会社、クレジットカード会社といったものがノンバンクにあたり、個人事業者向けのビジネスローンなどを行っています。銀行などと比べると、融資可能額は少なく、金利はやや高く設定されていることが一般的ですが、審査基準が緩めであったり、スピーディーな融資が可能であったりといったメリットもあります。メインでは利用しないという場合も、緊急時の資金調達手段などとして、覚えておくと役立つときがあるかもしれません。

(4) 地方自治体

都道府県や市町村といった地方自治体でも、個人事業主や中小企業経営者などに対して貸し付けを行う制度があります。そのような公的融資制度は、「制度融資」とも呼ばれ、地方自治体、金融機関、信用保証協会が協力して提供しています。
一般的な金融機関からの融資と比較すると、金利がかなり低く、信用力の少ない新設事業者でも利用しやすいという部分は、制度融資の大きな魅力といえるでしょう。
制度の多様さも特徴で、たとえば大阪府では、以下のような制度融資が用意されています。

開業サポート資金

創業時または創業から5年未満の事業者に対して、事業資金などの融資を行う。

小規模起業サポート資金

府内で小規模の事業を営む事業者に対して、事業資金などの融資を行う。

チャレンジ応援資金

経営力の強化や設備の導入、SDGsの取り組みなどを考えている事業者に対して、必要な資金の融資を行う。

経営安定サポート資金

売上が減少した事業者や、取引先の倒産により資金繰りが厳しくなった事業者に対して、必要な資金の融資を行う。

参考:大阪府

3.まとめ

ご紹介したように、個人事業主向けには、さまざまな機関でいろいろな融資制度が設けられています。これから起業しようという方にとって、選択肢が多いことはメリットである反面、いざ融資を受けるとき、どの融資制度を利用すればよいのか判断に困ってしまうというデメリットもあります。また、融資を申し込む際に必要となる事業計画書などの作成や準備は、想像以上に負担がかかるものです。もし少しでも迷ったり、不安があれば、融資の専門家などと相談しながら進めていくことをおすすめします。

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。
お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。