日本政策金融公庫の融資審査/落ちてしまうこともある?

起業時の資金調達先として検討したいのが日本政策金融公庫。国の金融機関である日本政策金融公庫は、起業を強力にバックアップする創業融資などの資金を提供しています。また新型コロナウィルスの感染拡大により業績が悪化した企業に対し、新型コロナウィルス関連融資などを提供して経営を支えています。私たちの日々の生活と密接につながっている日本政策金融公庫ですが、日本政策金融公庫とは何か、創業融資とは何か、創業融資の審査の内容、融資の審査を通すポイント等々、日本政策金融公庫とその融資につき、融資審査の内容を中心に概要をまとめてみました。

1.日本政策金融公庫とは

日本政策金融公庫は、株式会社日本政策金融公庫法に基づいて設立された国の金融機関です。元々は国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫の別個の公的金融機関でしたが、2008年10月に経営統合して現在の姿になっています。

公式ホームページによると、日本政策金融公庫の目的は
「一般の金融機関が行う金融を補完することを旨とし、国民一般、中小企業者及び農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うとともに、内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害、テロリズム若しくは感染症等による被害に対処するために必要な金融を行うほか、当該必要な金融が銀行その他の金融機関により迅速かつ円滑に行われることを可能とし、もって国民生活の向上に寄与すること」
となっています。つまり、一般の金融機関が融資を出しにくい企業や事業者に対して資金を提供し、金融の円滑化を図ることを目的としています。

日本政策金融公庫は、沖縄を除く日本全国に152の支店を有する、職員数7364人、資本金3兆9046億円、総融資残高17兆433億円の巨大金融機関です。なお、日本政策金融公庫の筆頭株主は総発行済株式の97.13%を有する日本国財務大臣で、言うなれば財務大臣をオーナーとする国営金融機関と言っていいでしょう。

日本政策金融公庫は民間の金融機関と同様、企業や事業者に対し、設備資金や運転資金などの資金を提供しています。また、個人に対しても教育ローンなどの資金を提供しています(ちなみに筆者も子供の教育ローンで日本政策金融公庫のお世話になっています)。日本政策金融公庫は、個人から比較的規模の大きな企業まで、幅広く資金を提供している国の金融機関なのです。

2.創業融資と一般融資

日本政策金融公庫の融資は、大きく創業融資と一般融資とに分けられます。まずはそれぞれの内容について整理しておきましょう。

日本政策金融公庫の創業融資には、新たに事業を始める人または事業開始後7年以内の人を対象にした「新規開業資金」、女性または35歳未満または55歳以上の人を対象にした「女性・若者・シニア起業家支援資金」、生活衛生関係の事業を始める人を対象にした「生活衛生新企業育成資金」、新たに事業を始める人または事業開始後2期を終えていない人を対象にした「新創業融資制度」などがあります。いずれも、事業計画書を中心に審査をされる点が共通しています。

一方の一般融資は、主に決算書や業績などの過去の実績によって審査されるのが特徴です。一般融資においても、特に設備投資などの場合、事業計画書が審査のポイントになるケースがありますが、一般的には、企業のこれまでの実績などを検証し、資金用途や返済財源などを確認して返済が確実になされるかを判断します。

よって創業融資を受けるには、現実的に実現可能性が高い事業計画書を作成し、審査担当者を納得させる必要があります。一方で一般融資を受けるには、事業収支やバランスシートの内容を良好な状態に保ち、健全性を確保しておく必要があります。

3.創業融資で審査落ちしないために

では、創業融資で審査落ちしないためにどうすればよいのでしょうか。創業融資の審査を突破するポイントをまとめてみました。

(1) 創業者の要件を満たす

日本政策金融公庫の公式ホームページには、創業融資を利用できる創業者の要件を以下のようにまとめています:

1.創業の要件

新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方

2.雇用創出等の要件

「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)なお、本制度の貸付金残高が1,000万円以内の方については、本要件を満たすものとします。

当然のことながら、以上の要件を満たさない人は創業融資の申し込みはできません。創業融資を申し込む前に、自分が要件を満たしているか必ずチェックしてください。

(2) 自己資金

日本政策金融公庫の創業融資のうち新創業融資制度については、創業資金の10分の1以上の自己資金の投入が求められています。一般的な創業融資の場合、創業資金の3割程度の自己資金が投入されているとしています。一般論として、自己資金の額が多いほど審査が有利になると見られており、可能な限り多くの自己資金を用意する方がいいでしょう。

(3) 公共料金などの支払いを確実に

日本政策金融公庫の創業資金を申し込む際、電気料金や水道料金などの公共料金などが確実に支払われているかがチェックされます。また、往々にして税金、家賃、奨学金、携帯電話料金などの支払いや返済がなされているかも細かくチェックされます。それらの料金をクレジットカードで支払っている場合は、クレジットカードの利用明細の提出が求められます。

公共料金などの支払いが遅れていたり未納であったりすると審査へ悪影響を与えますので、日本政策金融公庫の創業融資の申し込みを予定している人は公共料金などの支払いを確実に行い、受領証などの記録をしっかりと残しておく必要があります。

(4) 信用情報照会

日本政策金融公庫の創業融資を申し込む際、申込人の信用情報が照会されます。具体的には、株式会社CICや全国銀行個人信用情報センターを通じて申込人の信用情報が照会されます。それにより、日本政策金融公庫は申込人のクレジットカードやローンの利用履歴や事故などの情報を入手します。当然のことながら、クレジットカードやローンの返済延滞や債務整理などの情報があると、審査に重大な影響を与えることになります。

(5) 事業計画

日本政策金融公庫の創業融資の審査では、特に事業計画が細かく検証されます。事業計画に盛り込む売上や経費、利益などについては根拠をできるだけ明確にし、実現可能性が高い内容にするよう心掛けて下さい。可能であれば数字の根拠を添付するといいでしょう。また、事業を行う本人の熱意なども同時にチェックされるので、自分の事業に対する思いなどを書面に記し、併せて提出するのもいいでしょう。

(6) 生活費について

事業計画には、特に経費においては、自分の生活費が盛り込まれている内容にしてください。自分の生活費が賄えないようでは事業計画そのものの妥当性が疑われるからです。ご家族がいる場合は特に、売上の中から自分の生活費を確保できるということをしっかりと示す必要があります。

4.一般融資で審査落ちしないために

続いて、一般融資で審査落ちしないためにどうすればよいのでしょうか。一般融資の審査を突破するポイントをまとめてみました。

(1) 決算の状況

一般融資では、事業計画よりも決算書などの過去の実績が特に審査されます。営業収支が複数期連続で赤字であったり、バランスシートが債務超過である場合などは、審査に悪影響を与えます。営業収支での黒字を確保し、バランスシートを良好な状態に保つことが一般融資を確保する必要条件です。また、資金繰り表などで資金の流れを管理し、返済が確実に行えることを示す必要があります。

(2) 借入の状況

また、他の金融機関からの借入の状況もチェックされます。特に月商に対する借入残高の割合や借入の頻度、借入の内容、担保や保証人の内容、保証協会の利用状況などが詳細にチェックされます。ノンバンクなどからの借入がある場合などは、出来れば返済を済ませておく方がいいでしょう。

5.審査に落ちてしまったらどうする?

いかに用意周到に準備をしたとしても、必ず審査に通るとは限りません。日本政策金融公庫の融資審査に落ちてしまったら、どうすればいいのでしょうか。

(1) 6カ月待つ

一般論として、日本政策金融公庫の融資審査に落ちてしまった場合、最低6カ月は申し込みができません。厳密にいうと、申し込みはできるものの謝絶されます。逆に6カ月という時間をもらったと観念して業績の向上に努め、6か月後に数字をさらに良くして再度申し込みするよう心掛けて下さい。

(2) 民間金融機関へ切り替える

一方で、融資申し込みまで6カ月待てないというケースも多いでしょう。その場合は、思い切って民間金融機関へ切り替えることを検討しましょう。最近は新型コロナウィルス関連の制度融資なども使えるので、適切に手続きをすれば融資が出る可能性があります。トキワコンサルティングのような支援機関を上手に使い、保証協会や行政機関などの手続きを確実に行えば、融資がでる可能性がさらに高まります。日本政策金融公庫の融資審査に落ちてしまったら、民間金融機関の利用を検討しましょう。

6.まとめ

以上、日本政策金融公庫と融資、および融資審査などについてまとめてみました。日本政策金融公庫は、民間金融機関の機能を「補完」することを目的のひとつとしていますが、企業のメインバンクとしても十分にふさわしい存在になり得ます。創業融資はもちろんのこと、通常の運転資金や設備資金の調達先としても検討できます。融資獲得のための支援機関を活用し、日本政策金融公庫をフルに活用してください。

参照:日本政策金融公庫公式ホームページ

執筆者:前田 健二(まえだ けんじ)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスでビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年、経営コンサルタントとして独立。事業再生、アメリカ市場進出、コンテンツマーケティングなどを中心に指導を行っている。米国でベストセラーとなった名著『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。