「このアイデアで起業すれば絶対、成功するな」と思っている方。あるいは「起業したいけど、成功するビジネスモデルが見つからない」と悩んでいる方。本記事では、そのような方々に向けて、「起業アイデアのチェックの仕方」や「成功するビジネスモデルの本質」について、そのポイントを解説していきます。
もちろん、「このように起業すれば絶対、成功する」というような正解は存在しません。それはビジネスが、そして世の中(マーケット)がきわめて多くの要素で構成され、さらに日々変化し続けているからです。ただ、そこにもいままでの数多くの事例から導きだされる、信用に足るヒントになりうる法則があるはずです。では、起業アイデアをチェックし、成功するビジネスモデルを構築するための「手がかり」を一緒に探していきましょう。
起業アイデアの見つけ方
マーケティングにおいてよく使用される手法に「SWOT分析」があります。多くのマーケティング入門書でも紹介されている手法ですから、読者のなかにもご存じの方が多いと思います。SWOT分析はビジネスを取り巻く環境を内的・外的の両面から分析し、ビジネスの機会創出や再発見をするために有効なフレームワークです。この手法は、プラス要因として「Strength(強み)」「Opportunity(機会)」、そしてマイナス要因として「Weekness(弱み)」「Threat(脅威)」の4つの要素を掛け合わせて、ビジネスモデルを分析・検証していきます。
自分の好きなことや得意なことから発想してみる
これから起業する方にとって、「強み」とは何でしょうか。まず最初に思い浮かぶのは「自分が好きなこと」や「自分が得意なこと」ではないでしょうか。これは多くの場合、自分が長年やってきた仕事(あるいは趣味等)と重なる場合が多いと思います。自分が好きなことや得意な分野には、あなたなりの「発見」や「気づき」がきっとあるはずです。これを起業のコンセプトに設定する訳です。
事例:介護タクシー事業者を比較検索できるポータルサイトの構築
【ビジネスモデル骨子】
『自身の介護タクシー業務の経験を生かし、介護タクシー事業者を比較検索できるポータルサイトを開設することにより、これまでなかった利用者と事業者のマッチングサービスを提供。介護のレベルもまちまちである事業者のランク付けをすることで、各事業者のできることを見える化しました』(出典:創業者事例集~想う・繋げる・実現する~平成27年12月/中小企業庁 創業・新事業促進課)
冒頭の「自身の介護タクシー業務の経験を生かし」てという点からも、これはまさしく創業者の仕事上の経験が起業に直結した事例です。介護タクシー業務の経験のなかから、各事業者のサービス内容がまちまちであるという「気づき」が起業アイデアの核となっています。そして介護タクシーのサービスを受けるお客さまも様々でしょう。各事業者のできることを見える化することで、確実にユーザー利便性は向上します。それが「これまでなかった価値」を創造し、起業に結びついている訳です。
このように自分が関わってきた経験や業務から発想して、起業するのはきわめて有効な方法のひとつです。しかし、一方で、この方法は見通しが「甘く」なりがちという傾向もあると言われています。「自分はこの世界で○○年やってきているから、すべて分かってるよ」というような慢心は禁物です。くれぐれも、ご注意を。
自分が日頃から不便だと感じることから発想してみる
起業アイデアの見つけ方のふたつめの切り口としては、「自分が不便だと感じること」から発想する方法があります。これは前述のSWOT分析でいえば「Opportunity(機会)」からの発想ともいえるでしょう。自分が不便と感じたことや、自分が困った経験などを通じて得た「こんな製品やサービスがあったら・・・」という想いをカタチにする訳です。
事例:働く女性等をサポートする家事代行業
【ビジネスモデル骨子】
『働く女性や産前産後などで家事ができない女性等を対象とした家事代行業です。スタッフは、自身の経験からお客様の辛い気持ちがわかる主婦ばかりで、家事の得意分野を活かしてサポートします。』(出典:創業者事例集~想う・繋げる・実現する~平成27年12月/中小企業庁 創業・新事業促進課)
上記は同様な経験をもつ女性起業者による事例です。この起業のポイントは「働く女性や産前産後などで家事ができない女性等を対象」にしたというターゲットの絞り込みにあるのではないでしょうか。ターゲットを絞り込み、スタッフも「自身の経験からお客様の辛い気持ちがわかる主婦」を起用したところに成功要因があると考えられます。まさに起業者が日頃から感じていること、体験したことに根差した起業と言えます。
実際に市場調査をしてみる
起業アイデアが見つかったら、それらを検証するうで市場調査がきわめて重要になります。自分のアイデアを客観視し、そこで前述のSWOT分析でいえば、マイナス要因としての「Weekness(弱み)」「Threat(脅威)」等を発見することも可能になります。
まず市場調査の主要な目的は下記となります。
- 企画中のビジネスモデルを提示し、ターゲットニーズに合っているか検証
- 適正な商品価格帯を検証
- 競合製品・サービスとの比較 等
次に調査方法についてみてみましょう。調査方法は大別すると「定量調査」と「定性調査」のふたつに分けることができます。定量調査は答えが数字(件数、割合、金額など)で出てくるものです。たとえば、アンケート用紙に設問と選択肢式の回答欄を用意して、集計するような形態が典型的です。具体的な方法としては「訪問・面接調査」「郵送調査」「電話調査」「インターネット調査」などがあげられます。
この「定量調査」に対して「定性調査」は、数字では表しづらい領域を取り扱います。調査結果は数字としてではなく、意見・感想等としてアウトプットされます。調査方法としてはインタビューが代表的です。インタビューも1対1でおこなう形態や複数人数を集めて司会者をたてて実施するグループインタビューがあります。インタビューにおいては参加者の選考や質問内容等の調査設計が重要となり、また、そこから何を読み取るかという調査実施側の力量も問われます。
市場調査を実施するうえで、最も大切なことは「何を知りたいのか」という調査目的の明確化です。調査目的によって、上記の方法も使い分けることが重要になります。たとえば事業計画の初期段階等で、ビジネスモデルのアウトラインを策定するときには、ターゲットを変えながら数次のグループインタビューを繰り返すといった手法が有効です。
成功するビジネスモデルとは
次に「成功するビジネスモデル」について考察してみましょう。ビジネスモデルを分析・類型化してビジネスの構造や方法論から、起業を考えていきます。
模倣+α
これは既存のビジネスモデルに、+αの強みや独自性を付加するという形態です。もう少し付け加えるならば、既存のビジネスモデルに、自分ならではの強みを付け加えるということになります。前述の「事例:働く女性等をサポートする家事代行業」を思い出してください。世の中には家事代行サービスは数多く存在します。そのなかで、対象を働く女性等の同年代ターゲットに絞りこむことに、どのような強みがあるのでしょうか。
それは、起業者を含めてそこで働くすべてのスタッフが「自身の経験からお客様の辛い気持ちがわかる」ということ、つまりサービス提供者と利用者の間に、立場を超えた「共感」が存在することだと考えられます。それが変えがたい、“自分ならではの”強みになっているのです。
この「模倣+α」のビジネスモデルにはフランチャイズ事業への参画も含まれます。フランチャイズ事業への参画という、ある種の「模倣」にくわえて、自分なりの+α(強み)をどのように付加していくか。あるいは、どのような自分なりの+α(強み)をそこで発見していくか。これも成功するビジネスモデル構築のうえで、きわめて有効なアプローチです。
社会問題の解決
最新のマーケティング知見では、「社会的課題の解決」をビジネスの核に置くという考え方が注目を集めています。これは米マイケル・ポーター教授によって提唱されたCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)という考え方で、社会的課題を解決することによって社会価値と経済価値の両方を創造する次世代の経営モデルです。
近年、注目を集める「シェアハウス」「民泊」といったビジネスモデルも、その背景には「都市部の住宅事情」や「地方活性化」等の社会的課題が存在しています。
しかし、このような方法は実現したときの社会的なインパクトが大きく、ロマンがある反面、ビジネスモデルを構築するのは相当な労力を伴います。たとえばUbert(ウーバー)の市場導入の事例のように、日本は諸外国と比較して規制が強く、許認可ひとつとっても莫大な労力と時間が必要とされることがよくあります。
ただ、自分の起業アイデアを「社会的課題の解決」という見地から再チェックしてみるのは有効な方法ではないでしょうか。たとえば、あなたの起業アイデアの運用に経験豊富なシルバー層スタッフを考えていたとします。これも実は高齢化が世界最速で進行する日本において社会的課題の解決に寄与するものです。そのような視点からチェックすることで、あなたの起業アイデアに拡がりや新しさがでてくることもあると思います。
(もちろん上記例は助成金等の取得のうえでも有効ですが、まずはじめに、社会がビジネスをそのような方向に誘導しているということを考えてみてください)
イノベーションとパラダイムシフト
ビジネスモデル考察の延長線上でふたつのキーワード「イノベーション」「パラダイムシフト」について考えてみましょう。まずイノベーションの例としてよく取り上げられるスマートフォンについて考察してみます。果たしてスマートフォンは電話の代替物なのでしょうか。答えはもちろんノーです。スマートフォンは通話にくわえて、写真撮影や音楽を聴いたり、動画を見るといった多様な価値をひとつに集めたデバイスです。このように従来のライフスタイルを一変させてしまうのがイノベーションの本質です。
「パラダイムシフト」はある時代や分野において当然と考えられていた認識を一変させることですが、これはスマートフォンのような製品の分野だけではありません。たとえば近年よく耳にする「サブスク(サブスクリプション)」。これは既存の製品をひとつずつ購入するのではなく、一定期間&定額制で購入する「仕組み」のイノベーションです。
もちろんイノベーションやパラダイムシフトを起こすことは容易ではありません。ただ現在の世界はイノベーションやパラダイムシフトがきわめて活発な時代であり、そのような時代の流れを見据えることも、基本的なこととして押さえておきたい事項です。
ニューノーマル時代の起業と原点回帰
イノベーションとパラダイムシフト。さらに昨今のコロナ禍においてニューノーマル(新しい常態)の模索が日々、メディアなどでも論じられています。
このような時代をどう見るか、その視点はそれこそ千差万別でしょう。「混迷の時代」としてとらえることも可能ですし、ビジネスチャンスがあふれた「多様性の時代」ということも可能です。
ただ、最終的には自分が本当に興味の持てるテーマで起業することが、最も大切なのではないでしょうか。人々の価値観が多様化する現代だからこそ、自分が本当に興味のあること、つまり自分が最も多くの時間を注ぎこんで考えてきたテーマのなかで得た「気づき」や「発見」を元手に起業することが成功への近道だと考えます。
The best thinking has been done in solitude. The worst has been done in turmoil.
『最上の思考は孤独のうちになされ、最低の思考は混乱のうちになされる』これは「発明王」とも称され、生涯に1,300もの発明と技術革新を行ったトーマス・エジソン(1847~1931)の言葉です。急激な変化が進む現代だからこそ、原点回帰として自分が考え抜いたテーマが大切なのではないのでしょうか。そしてなによりも「起業の本質」とは「ビジネスの発明」に他ならないのですから。
広告制作会社・書籍編集プロダクションなどを経て、現在はフリーの編集ライター。CSRレポートや環境報告書なども手がける。最近はDXをはじめとするIT関連分野のライターとしても活動中。