起業家にとって、意外と大きな負担になるのが税金の支払い。特に、起業したての頃は、通知が届いてはじめて「えっ、こんなに納めるの?」と驚く方も多いかと思います。そこで、起業するにあたり必ず知っておきたいのが、節税対策。本記事では、個人事業主が支払う税金の種類から、4つの節税対策まで、わかりやすく解説します。
1. 税金の種類
まずは、起業するとどんな税金を支払うことになるのかを見ていきましょう。個人事業主が納めるのは、主に4種類の税金です。
(1) 所得税
1年間の所得から、所定の控除額や、所得を得るためにかかった必要経費を引いた残りの所得額に対してかかる国税。税率は5%〜45 %で、所得額が大きくなるほど税率が上がります。毎年、確定申告を行なって納付します。
(2) 消費税
事業者が、物やサービスの販売代金と一緒に消費者から預かり、国へ納める税金。令和2年現在の標準税率は10 %、軽減税率は8%です。納税義務があるのは、基準期間(課税期間の前々年度)もしくは、特定期間(前年の1月1日〜6月30日)の売上高が1,000万円を超えている「課税事業者」のみ。当てはまらない事業者は、「免税事業者」といわれ、納税義務がありません。
(3) 住民税
前年の所得額に対してかかる地方税(市区町村民税と都道府県民税)。毎年6月ごろ、事業所がある市区町村から納付書が届きます。一括払いか、年4回の分割払い(6月,8月,10月,1月)のいずれかを選んで納税します。
(4) 個人事業税
事業での所得額に対してかかる地方税で、毎年8月と11月に、事業所のある都道府県へ納付します。業種ごとに3 %〜5 %の税率がかかりますが、納税義務があるのは、事業所得が290万円を超える事業者のみ。業種によっては、290万円を超えても課税対象とならないケースもあります。
2. 4つの節税対策
では、個人事業主ができる節税対策には、どのようなものがあるのでしょうか。4つの方法をご紹介します。
(1) 青色申告
基本的に、個人事業主になると、1年間の所得を税務署に申告して納税を行う「確定申告」をしなければなりません。確定申告には、事前申請が不要な白色申告と、事前申請が必要な青色申告の2種類がありますが、節税効果が高いのは「青色申告特別控除」がある青色申告です。
帳簿づけを簡易の単式簿記で行う、正規の複式簿記で行う、e-Taxによる電子申告もしくは電子帳簿保存を行う、といった要件をどれくらいクリアできるかによって、10万円、55万円、65万円と3段階の所得控除が設けられています。(2020年分の確定申告より)つまり、控除額分の所得にかかる税金を抑えることができるのです。
少し手間はかかりますが、一度覚えてしまえば、それほど難しいことではありません。簡単に入力できる会計ソフトなどもありますから、確定申告期限に遅れないよう注意しながら、ぜひ挑戦してみましょう。
白色申告
事前申請不要、単式簿記での帳簿づけが必要、特別控除額なし。
青色申告
事業開始日から2カ月以内に要事前申請、3段階の特別控除額あり。
- 控除額10万円・・・単式簿記での帳簿づけが必要。
- 控除額55万円・・・複式簿記での帳簿づけが必要。
- 控除額65万円・・・複式簿記での帳簿づけ、e-Taxか電子帳簿保存が必要。
(2) 社会保険への加入
会社員から個人事業主になった場合、社会保険は「国民年金保険」、「国民健康保険」に切り替わり、保険料を全額自分で支払うことになります。支出が増えるというマイナス面ばかり気になってしまいがちですが、これらは全額が社会保険料控除の対象となります。
特に公的年金には、国民年金にプラスして個人事業主が加入できる「付加年金」と「国民年金基金」があり、「国民年金基金」は掛け金の全額が所得控除されます。また、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「小規模企業共済」は、個人事業主を主たる対象とした積み立てによる退職金制度で、こちらも掛け金は全額所得控除されます。節税対策としてだけでなく、老後の備えとしても考えてみるとよいでしょう。
付加年金
月額400円の付加保険料を上乗せして納めることで、将来受け取る年金額を増やせます。
国民年金基金
掛け金の月額上限は68,000円で、その範囲内で年金タイプを選んで加入することで、将来の国民年金に上乗せして受け取れます。
小規模企業共済
掛け金の月額は1,000円から70,000円まで、500円単位で自由に設定できます。共済金の受け取りは、退職・廃業時に「一括」、「分割」、「一括と分割の併用」のいずれも可能です。
(3) 経費の見直し
個人事業主が納める税金の中でも、特に大きな金額となるのが所得税。課税される所得額は、総所得額から各種控除額と必要経費を引いたものです。つまり、これまでご紹介した青色申告や社会保険料などの控除をできるだけ増やすことに加えて、必要経費をよく見直し、もれなく洗い出すことが節税対策にはとても重要なのです。
たとえば、仕事でかかった交通費、取引先との飲食費など、事業を行う上でかかった費用はほぼ必要経費となります。自宅をオフィスとしている個人事業主は、家賃、水道光熱費、インターネット料金といった費用も「家事按分」といって、事業で使用する比率分に関しては経費に計上できます。
また、個人事業主本人の報酬は、「給与」ではないため、経費計上できません。節税からは少し遠回りかもしれませんが、経費を見直すという観点で、あらためてご自身の報酬額について考えてみることも大切です。
(4) 減価償却資産の見直し
減価償却資産とは、事業用の資産の中で、建物や車、機械など10万円以上の耐久性のある資産を指します。減価償却資産は使っていくうちに価値が減少していきます。したがって、その購入費用は、税法上の耐用年数で分割して経費に計上され、数年間にわたり節税効果があるのです。申告の際は、そういった減価償却資産のもれがないかよく確認しましょう。
また、個人事業主が節税を考えるにあたり、必ず知っておきたいのは「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」です。以下4つの要件を満たす個人事業主は、10万円以上30万円未満の減価償却資産の購入費用を、分割ではなく一括で必要経費にすることができ、大きな節税効果があります。
- 青色申告をしていること
- 従業員が1,000人以下であること
- 少額減価償却資産の合計額が年300万円以内であること
- 確定申告書に、少額減価償却資産に関する明細書を添付すること。
(参考:国税庁 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)
申告前には、対象となる事業資産がないか、必ず見直してみましょう。
3. まとめ
個人事業主の納める税金、そして4つの節税対策についてご紹介しました。起業して間もなくは、はじめてのことばかりで戸惑うかもしれませんが、今後の安定した経営のためにも、節税してできるだけお金を残すことはとても大切です。税金の計算や確定申告の作成が難しければ、会計ソフトを利用してみるのも一つの方法です。また、税金や節税のことで困ったときや、わからないことがあるときは、税の専門家である税理士へ相談することをおすすめします。会計ソフトやプロのサポートを上手に活用しながら、ぜひ節税にチャレンジしてみてください。
金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。
お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。