起業と税金/起業時に把握しておきたい税金のイロハ

会社に勤めている場合、住民税や所得税は給料から天引きで納付されます。しかし、起業して個人事業主や法人として事業を展開していく場合、税金の支払いは自分でしなければなりません。また、事業者ならではの税金も発生します。したがって、「今まで税金のことを、あまり意識したことがない」という方も、起業に伴い、税金について知っておく必要があります。
本記事では、会社員と比べて起業した際には税金のどんなことに気を付ければよいのか、個人事業主と法人では税金にどんな違いがあるのか、そして、事業を営むにあたり重要な、税金と資金繰りについても、わかりやすくご紹介します。

1.会社勤めとの違い

「自分で納税しなければならない」ということ以外にも、会社員時代と起業後では税金に違いがあります。以下の2つのポイントに注意しましょう。

  • まず、住民税に注意!
    住民税は、所得や住んでいる地域によって納税額が決まります。会社を退職して収入が下がるのだから、住民税も減るだろうと思いがちですが、住民税は、前年の1月1日〜12月31日までの収入を基礎として算出されます。つまり、大抵の場合、起業時の収入よりも高額となる会社員時代の収入がベースとなり、退職後もこれまでとほぼ同額の住民税を、ご自身で納税しなければならないということです。起業時はなにかと出費が多くなるかと思いますが、住民税を支払うための資金を必ず準備しておくようにしましょう。
  • 消費税の納付が必要になることも!
    消費者として買い物をする場合には、消費税を“負担する”立場ですが、起業し事業者として商品やサービスを販売する場合には、消費者から預かった消費税を国へ“納付する”立場となります。事業者は、課税対象となる売上分の消費税から、仕入れにかかった消費税を控除した差額を計算し、納税しなければなりません。事業を始める際は、消費税の納付義務や、納税にともない消費税を計算する事務が発生することも考えておきましょう。なお、一定の要件を満たした個人事業主は消費税の納付が免除されます。これについては、次項でご説明します。

2.個人事業主と法人の違い

起業して事業を立ち上げる場合、個人事業主になるか、法人を設立するかを選択することになりますが、実は、どちらを選ぶかによって納める税金が異なります。税金の種類別に、それぞれの特徴を見ていきましょう。

個人事業主の税金

【所得税】
個人や個人事業主が得た所得に対して、国に納める税金です。所得とは、収入金額から収入を得るためにかかった必要経費や所定の控除額を引いたあとの金額で、事業所得や雑所得など10種類に分かれています。税率は5%〜45 %で、所得金額に比例して高くなります。

【個人事業税】
個人事業主が事業で得た所得に対して、事業所の所在する都道府県へ納める税金です。課税されるのは法律で決められた70種の対象業種で、事業所得が290万円を超える場合のみ、業種ごとに3 %〜5 %の税率がかかります。なお、事業所得が290万円以下で、対象業種に該当しない事業には課税されません。

【住民税】
個人や個人事業主が得た所得に対して納める市区町村民税と都道府県民税の合算で、それぞれ均等割と所得割という部分に分かれています。自治体により異なりますが、均等割は所得に関わらず定額でおよそ5,000円、所得割は所得に対して一律10 %課税されます。

【消費税】
商品などの販売にともない消費者から預かる税金で、令和2年現在の標準税率は10 %、軽減税率は8%です。事業者は、預かった消費税から仕入れ段階などで自ら負担した消費税を差し引いて納税します。だたし、納税義務があるのは以下のどちらかに当てはまる事業のみで、該当しない事業や開業1年目の事業は免税となります。

  • 課税期間の前々年度(基準期間)の課税売上高が1,000万円超
  • 前年の1月1日〜6月30日(特定期間)の課税売上高が1,000万円超

【その他】
従業員の給与から天引きした源泉所得税、土地や建物を購入したときの不動産取得税、保有する土地や建物に対する固定資産税、土地や建物以外の資産に対する償却資産税、普通自動車などに対する自動車税、バイクや軽自動車に対する軽自動車税といった税金の支払いも発生する場合があります。

法人の税金

【法人税】
株式会社や合同会社(LLC)などの法人が、事業で得た所得に対して国に納める税金です。法人の種類や事業規模、所得額によって、税率が15 %〜23.4%まで細かく定められています。他に2014年の税制改正で創設された地方法人税(地方税ではなく、これも国税です)がありますが、ここでの説明は割愛します。

【法人事業税】
法人が事業で得た所得に対して、事業所の所在する都道府県へ納める税金です。税率は、都道府県ごとに決められており、法人の種類や事業規模、所得額によっても異なります。基本的に所得がゼロ以下の事業には課税されませんが、資本金1億円以上の法人には、外形標準課税として課税されるケースもあります。また、2008年に法人事業税を移管する形で創設された地方法人特別税がありますが、ここでの説明は割愛します。

【法人住民税】
法人が得た所得に対して納める法人市区町村民税と法人都道府県民税の合算で、それぞれ均等割と法人税割という部分に分かれています。自治体により異なりますが、均等割は資本金と従業員数に応じて一定の税額が決められており、法人税割は法人税額に基づいて計算されます。

【消費税】
税率や基本的な取り扱いは個人事業主と同様です。しかし、納税が免除となる条件については注意が必要です。たとえば、新規設立時の資本金が1,000万円以上の法人や、年商5億円超の法人からの出資割合が50 %を超える法人などは、設立1年目であっても納税免除にはなりません。

【その他】
個人事業主と同様に、源泉所得税、不動産取得税、固定資産税、償却資産税、自動車税、軽自動車税などの税金の支払いも発生する場合があります。

3.税金と資金操り

これまで見てきたように、起業するとさまざまな税金を自分で納めていかなければなりません。さらに、たとえば個人事業税は毎年8月と11月の末日まで、法人事業税は事業年度の末日から2カ月以内というように、それぞれの税金には納付期限があります。滞納してしまうと、延滞税が発生する場合もあるので、支払い漏れのないよう注意が必要です。ご自身の事業が納めるべき税金は何か、いつまでに納付すればよいのかをしっかり把握しましょう。
そして、最も大切なのは、税金を納付するための現金を用意することです。納付期限が近づいてから慌てることのないように、日頃より事業の収入と支出をきちんと管理し、納税時期に資金を支出できるよう準備しておきましょう。そうした資金繰りを常に意識しておくことは、事業を末長く順調に続けていく上でも大変重要です。

4.まとめ

個人事業主や法人として起業した際の税金について、ご紹介しました。特に注意していただきたいのは、やはり資金繰りです。起業1年目にまとまった額の住民税を支払うことを念頭に置いて起業資金を準備したり、年間の納税計画を計上した資金繰り表を作成したり、税金の支払いによって事業が資金不足とならないように工夫しましょう。

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。
お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。